日本だと謙遜しがち イギリスで日本のファッションアイテムを褒められた女性が気づいた“素敵だと思う習慣”とは

海外暮らしで意外に困るのが、洋服の買い物(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

日本を離れ、海外で暮らす人が増加傾向にあります。しかし、実際に暮らすとなると、さまざまな困難が待ちかまえていることも。生活必需品である洋服の購入ひとつとっても、日本とは勝手が違って戸惑うことがあるでしょう。ひょんなことからイギリスに移住、就職し、海外在住歴7年を超えたMoyoさんが外国暮らしのリアルを綴るこの連載。31回目は、海外暮らしのファッション事情です。

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洋服の買い物で困るサイズの問題

海外で長いこと生活するうえで避けて通れないのが、洋服の買い物ではないでしょうか。海外のファッションブランド品を買って困ることのひとつに、とにかく海外のアイテムは、いろいろな丈が長すぎることが挙げられます。トップスなら着丈や袖丈が、パンツなら股下がとにかく長い。

私の身長は、日本人女性の平均身長(157センチ)前後。基本的に一番小さいサイズのXSサイズ(ブランドによってはXXSなどもあります)などを選びますが、それでもまったく合いません。袖や裾を何回まくればいいのかと、嘆きたくなることもしばしば。

肩周りもガッチリした作りが多いため、肩幅が狭い私はサイズがまったく合わずにストンと落ちてしまいます。モデルが着用しているときのような、きれいなシルエットを再現できません。やっぱりもともとの体の規格が違うんだなと、何度も洋服の買い物で思い知らされました。

そこでよくお世話になったのが、ユニクロやMUJI(無印良品)のファッションアイテム。インナーウェアやベーシックアイテムにはとても救われました。また、ブランドによってはキッズサイズも見るといいとおすすめされることも。ですが、そうすると今度は好みのデザインに出合うことが難しくなります。

ハロッズなどラグジュアリーブランドがそろう百貨店での買い物も、サイズが合わず足が遠のいてしまう日々【写真:Moyo】

日本から運べる荷物の量にも制限があるので、消耗品である洋服はなるべく現地で買い物しようと思っていました。それに「素敵!」と思ったデザインやブランドが海外にはたくさんあるので、最初のうちは懲りずに買い物していましたが、そのほとんどが試着だけになったり、返品したりする結果に。

どんなに素敵なアイテムに出合っても、自分の体格に合わないことが痛いほどわかったので、だんだん試すことすらも億劫に。そして、着慣れた日本の洋服や小物を帰国するたびにイギリスまで運ぶようになりました。

いいものはいい! と言い合ううれしい効果

私自身のファッションの趣味として、全体的にシンプルだけど、どこかにアクセントがあるブランドやアイテムを好んでいます。そういった日本で購入したアイテムをイギリスで着るようになると、「どこでそのトップス買ったの?」「コートのシルエットがすごくきれいね!」「そのバッグ、ヤバイ! 欲しい!」など、声をかけられることが断然増えました。

「日本から持ってきているんだ」と答えると、「いいなぁ、次に帰国したら買ってきてほしいくらい!」の声。彼らからすると、私にとっては慣れ親しんだアイテムがとても新鮮なのです。

とくによく褒められたのは、個人デザイナーのブランドで購入したアイテム。スタンドカラーの小さなフロントボタンワンピースや、シンプルなブラックのAラインのメルトンコート、小さな襟付き&スリット入りの軽くて動きやすい半端丈ダウンコート(実際に自転車に乗るときに重宝)など。さらに洋服だけでなく、バケツ型コーデュロイバッグに、シルバーの重厚感あるぽってりイヤーカフなど、身につけている小物もよく聞かれました。

聞けば、ちょっとした細かなニュアンスに違いがあるアイテムや、ゆるすぎない、かつぴったりしすぎないシルエットのアイテムがなくて、残念に思っているようでした。これには私のほうがびっくり。イギリスは、日本にはない素敵なアイテムばかりだと思っていたからです。

また、私がなぜ日本から服を持ってこなければならないのか、理由(海外のサイズが合わなさすぎる)を説明すると、相手も「そんなにサイズ感が違うの?」とびっくりしていました。

話題はファッションに限らず、こうした道端で会話が突然繰り広げられるのは珍しくない【写真:Moyo】

ちなみに、こうした会話は社内だけでなく、街中でも突然繰り広げられます。日本でも友人同士などで「そのアイテムかわいいね、どこの?」と聞いたり、褒め合ったりすることはあると思いますが、道端や社内でいきなり見知らぬ人や同僚に声をかけたり、逆にかけられたりすることはなかなかないですよね。

同僚といっても、顔は知っているけれど一回も言葉を交わしたことのない人から、まったく知らない人までさまざまです。そんな人たちとでもファッションを通して小さな会話が生まれて、次に会ったときにあいさつするくらいの仲になる人も出てきました。

いいものをいいと褒めるのは、一見シンプルな行為ですが、日本だと突然声をかけて相手を戸惑わせてしまったり、困らせてしまったらどうしようと考えて躊躇したりしますよね。しかし、イギリスに来て実際に声をかけられたら、困るどころかうれしくなっている自分に気づきました。

日本だったら、褒められても何かと恥ずかしくなったり謙遜したりしてしまい「そんなことないんです。ここがちょっと使いにくくて~」「見た目より安いんですよ」などと返答しがちですが、褒められたことに感謝して「ありがとうございます。本当に素敵なアイテムですよね」と肯定的に返事するのもいいなと思いました。

日本の相手の気持ちを慮る文化も好きですが、イギリスのようにストレートに伝える文化も素敵ですよね。日本の相手を思いやる行動や言葉、控えめに謙遜する姿勢も大切にしていきつつ、イギリスのようにストレートに伝える習慣も上手に使い分けられたらいいなと思います。

イギリスでこうしたことを実感してから、それまでは「この人のスタイル素敵だな~」と思っても、ただ単に心の中で唱えているだけでしたが、ちょっと勇気を出して「素敵だね」と声をかけるように。そうすると、ますます人とのつながりが広がっていきました。うれしい効果しかない、ちょっとした行動、ぜひ相手を見つつ試してみてください。

Moyo(モヨ)
新卒採用で日本の出版社に入社するも、心身ともに疲弊し20代後半にノープランで退職。それまでの海外経験は数度の旅行程度だったが、イギリスへ語学留学ののち移住した。そのまま、あれよあれよと7年の月日が経ち、現在はフランスに在住。ライター、エディター、翻訳家、コンサルタントとして活動している。最近ようやくチーズのおいしさに少し目覚める。

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