ゲームのやり過ぎは「心の健康に悪影響なし、良い効果も特にない」ことが研究で判明

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学術誌「Technology Mind and Behavior」に掲載された新しい研究では、ビデオゲームはそのプレイ時間長短にかかわらず、プレイヤーの精神的健康を損なったり悪い影響を与えたりすることはないことが報告された。

コロナ禍以来、ビデオゲーム業界は活況を呈しており、おそらく今後もそれは続いていくと思われる(コロナ禍収束後の人員削減やスタジオの閉鎖などは相次いでいるが)。ゲームは娯楽のひとつとして定着し、プレイヤーに日常とは異なる世界を体験させてくれるものだ。

しかし、ゲームには中毒性もあり、プレイヤーがうまくプレイできずにイライラし、周囲に暴力的になるといったこともある。そのため、ゲーム機やPC、スマートフォンで長時間過ごすと、プレイヤーの健康と精神面に悪い影響があると主張する人もいる。一方で、ビデオゲームをプレイすることで認知能力に有益な側面があると主張し、全体的な健康にも良いという人もいる。

オックスフォード・インターネット研究所の博士研究員で、この研究を主導したニック・バロウ氏は、自らがビデオゲームをプレイしてきた中で、ゲームが健康に有害だと感じたり、逆に健康に良いと思えたりしたことがある」とし、長時間のゲームプレイがプレイヤーの精神的健康に良くないという考えを一掃し、むしろゲームの質が与える影響についての、より細やかな評価ができるようにしたいと考えた。

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ビデオゲームをテーマとした過去の研究では、一部では過度のゲームは不安やうつ病などの問題につながる可能性があると示唆している。しかし別の一部では、ゲームをプレイすることと精神的な面に関連性はほとんどないか、まったくないことがわかったとも報告されている。そして、また別の一部の研究では、ゲームはストレスの発散や、心理的欲求を満たす、何らかの学びを得るなど、有益な可能性があると示唆する研究もみられる。

ただ、これまでのビデオゲームに関する分析は、いずれも対象となるプレイヤーの自己申告データに依存している。バロウ氏は、その正確さに問題があると考え、異なるアプローチを採用した。

バロウ氏のチームは、英国と米国から募集によって平均年齢32歳の成人414人を集めた。このプレイヤーは全員がXboxユーザー。研究者らはプレイヤーとフレンドになることで、プレイヤーのステータス表示を追跡可能とし、12週間にわたって正確なゲームプレイ時間に関するデータを取得した。

またプレイヤーに対しては、2週間ごとに精神的な健康状態を測定するためのアンケート調査を行った。研究者らはこの調査で、特にプレイヤーの「ポジティブな感情(参加者がプレイ中にどれだけ幸せを感じたか)、抑うつ症状(過去1週間の悲しみや絶望感)、全体的な精神的健康状態(過去2週間の全体的な精神的健康)」という3つの側面を測ることに注力したという。

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その結果、測定した3つの側は、そのいずれにおいてもプレイ時間と自己申告における幸福感の間に関連性がなかった。幸福感の変化がその後のプレイ時間に影響したという証拠も見つかることはなく、気分や精神状態の変化を経験したというプレイヤーも、その後のゲーム習慣に大きな変化を示さなかった。

つまり、プレイヤーがお気に入りのタイトルをどれだけ長くプレイしたとしても、ビデオゲームは精神的な健康に良い影響も悪い影響も与えないことが分かったということだ。

この結果は、プレイヤーのゲームプレイ時間にかかわらず同じだった。ゲームのプレイ時間は、全体では1日当たり平均2.1時間だったが、1時間だけ遊ぶ人もいれば、毎日5時間をついやす人もいた。研究チームは、プレイヤーがゲームをプレイする時間を1時間増やしたとしても、その幸福感には0.02ポイント未満の変化しかなかったという。

バロウ氏は「ゲームはどれも同じというわけではないが、ストレス解消や現実逃避など、プレイヤーに多くのメリットを共通してもたらす」と述べた。そして悪い影響があると考えるならば、「睡眠時間、仕事や学業のパフォーマンス、友人や家族との関係などの代替不可能な活動がゲームに取って代わられてしまうような、非常にまれなケースでなければ、心配はいらないだろう」と述べている。

ただ、この研究にも注意すべきところはある。まず、研究対象がXboxユーザーに限られていること。PlayStationやNintendo Switch、PCなどといった他のゲームプラットフォームにおいて、プレイヤーが皆同じ傾向を示すかはわからない。また、研究対象がすべて成人であり、ゲームというジャンルの主要な顧客層であるティーンエイジャーが研究に含まれていないことも、研究結果を一般化できない要因であると考えられる。

それでもこの研究結果は、さらなる研究の基礎としてビデオゲームのプレイとメンタルヘルスの利害に関するさらなる研究を促すものとなりそうだ。

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