検死シミュレーター『Autopsy Simulator』こだわった解剖パートはインパクト抜群!ただし「シミュレーター」と「ドラマ&ホラー」での“見せたい部分の乖離”が惜しい

検死シミュレーター『Autopsy Simulator』こだわった解剖パートはインパクト抜群!ただし「シミュレーター」と「ドラマ&ホラー」での“見せたい部分の乖離”が惜しい

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本作は「検死」というテーマを扱っているため、記事内には血や内臓、欠損部分が写ったスクリーンショットを多用しています。
くれぐれも気をつけて御覧ください。

Team17は、ポーランドの開発スタジオWoodland Gamesの手がける新作アドベンチャーゲーム『Autopsy Simulator』をPC(Steam)向けに2024年6月7日リリースしました。

本作は「検死」をテーマにしたシミュレーター作品。プレイヤーは監察医の主人公ジャック・ハンマンとなり、さまざまな事件の遺体を解剖しながらその死亡原因を探っていきます。リアリズムにこだわったというグラフィックだけでなく、検死部分では病理学者と法医学者がそれぞれのケースを監修しています。

また、ゲーム内ではホラーやアドベンチャー要素が組み込まれているのも大きな特徴。妻を亡くしたことを悔やみ憔悴しているジャックは、検死中などさまざまな場面で“恐ろしいもの”を目撃・体験していきます。リアルなシミュレーターと恐怖体験の先に、どのような真実が待ち受けているのでしょうか。

本稿では『Autopsy Simulator』のプレイレポートをお届け。冒頭でも記載していますが、ゲームの特性上スクリーンショットには内臓や血、傷跡などが多いので、苦手な方はくれぐれもご注意ください。

死体からのメッセージを解き明かせ

『Autopsy Simulator』の物語は、主人公のジャックがとある検死を行う直前からスタートします。最初の検死は大学の講義用に録画しているもので、検死の心構えややり方などをジャックが説明しながら行うという、わかりやすい導入とチュートリアルを兼ねたものになっています。

検死作業は遺体の確認と警察資料の閲覧から始まり、そこから記録用の遺体撮影、痕跡の確認と撮影、死後硬直のチェックといった作業が続きます。調べた部分はクリップボードの人体図に記録され、予想される死因や傷の原因なども追加されていきます。一通り終わればいよいよ解剖の時間です。

ゲーム内で一番最初に行う解剖作業は「頭蓋骨の切開」です。本作の解剖や検査の一部はミニゲーム形式になっていて、頭蓋骨切開ではマウスを一定のゲージに調整することで作業が進んでいきます。音と血が結構なインパクトを与えてくれますが、最初にこれをやらせることで一種の“覚悟”ができるかもしれませんね。

切開後は脳を取り出して傷や異常がないかを調べたり、解剖台で切って内部を調べたりと、問題がありそうな臓器をチェックしていきます。章が進むと血液成分のチェックや咬み傷の鑑定、指紋確認、紫外線での傷跡確認といった作業も増えていき、ジャックの仕事は大幅に増えていきます。

必要な情報をすべて得たら最後に「この遺体の死因はなにか」「他殺なのか事故なのか自殺なのか」などを選び解剖は終了。切開した遺体を縫合し、冷蔵庫に収め、ジャックの仕事は終了します。ちなみに、本作は作業に自由度はほとんどありません。あくまでルールに従って解剖を行うものです。

扱っているテーマがテーマなので当然ですが、作業は内臓や血、粘膜、骨などを扱うものばかり。個人的にはメスで皮膚を切って体を開く際の内臓脂肪の粘度表現がなかなかグロいかな、と思いました。

妻を失った男の苦悩

主人公のジャックは、少し前に妻・アリスを失った影響で精神が大きく落ち込み、自身を落ち着かせる薬が手放せない様子。ゲームはジャックの自宅と仕事場である解剖室で起こるドラマを起点にしたストーリーがメインとなります。検死シミュレーターというよりも【検死をしている主人公のドラマ】という印象が強いでしょうか。

ジャックの精神は常にアリスを亡くした後悔に満ちています。ゲーム内では特定のオブジェクトをチェックできるのですが、アリス関連の写真や思い出の品、結婚記念品などを調べると泣き、時にはわめき、本当に痛ましいほどの苦悩がボイス付きで臨場感たっぷりに伝わってくるのです。

そんな精神状態のジャックに追い打ちをかけるように、彼の身の回りには色々な不思議なことが起こります。それが本作のホラー要素であり、視覚や聴覚などを通じてジャックの不安を煽るような、さまざまな違和感やショックが襲いかかってきます。ホラー要素に関しては、かなりジャンプスケア的な部分が多めです。

ジャックを支えてくれる友人もいるのですが、それでも苦悩し続けるジャックの生活は収まらず、薬の摂取量は増えていきます。章が進むごとに増えていく謎、提示されていく情報、そしてどんどん深くなっていくジャックの苦悩などが合わさり、ストーリーは展開していき、最後に驚くべき事態も待ち受けているのです。

本格的シミュレーターとドラマがやや乖離している

こだわりぬいた検死シミュレーターが楽しめる『Autopsy Simulator』なのですが、やはり感じるのはその自由度の低さ。シミュレーターである以上正しいやり方を提示するのは当然ではあるのですが、プレイヤーが指示通りにしかほぼ動けないのは少しもったいない部分です。

死因の特定や解剖時のミニゲームなど、いくつかの場面でミスすることのペナルティはあるのですが、これも気休め程度(視界が歪む・薬を飲めば回復)。大学講義の資料であったり、警察提出用の録音という形式で音声でプレイヤーを導くゲームデザインは優秀ですが、もう少し自由に動ければな、という思いはあります。

また、どうしてもジャックのストーリーが強すぎるため、本格的な検死があくまでもストーリーのための一部に感じてしまうのも勿体ないところ。しっかりとストーリーに組み込まれてはいるのですが、見せたい部分として「本格的シミュレーター」と「ドラマ」がやや乖離してないかな、という印象は否めません。

もちろんこういった部分は開発も考えているようで、本作は「リリース時はストーリーモードのみ実装」であることをアナウンスしています。今後の更新で、ランダムな死因の遺体で検死部分だけを楽しめるモードも追加されていく予定ですが、決してストーリーモードが長くないことを考えると、少しでも早い実装を望みたいところです。


『Autopsy Simulator』の検死シミュレーター部分は、アクションの自由度は少ないですが、やはり取り扱ってるテーマを含めたインパクトは抜群。骨を切除し、火傷痕をじっくりと観察し、内臓の違和感を感じ取り、遺体からのメッセージを読み取るという作業はしっかりと楽しめます。

ストーリー部分もジャックの痛ましいほどの苦労をじっくりと描いていて、全体的には読ませる内容になっています。ホラー要素に関してはジャンプスケアが多いため、少し好みが分かれるかも知れませんが、一通りの“お約束”は揃っていて楽しめる印象です。

グロさに関しては、テーマがテーマなので、これはもう間違いなくグロい作品です。内蔵も血もたっぷり、なかには頭部や腕など、大切なパーツが無い遺体も珍しくありません。プレイする前には、公式トレイラーなどをしっかりチェックすることをおすすめしておきます。

現時点では勿体ない部分も感じられる本作。ストーリー中で一回しか使わなかった器材や作業も多かったので、今後実装される検死のみモードは間違いなくゲーム性を大きく引き上げると思います。最後に。オプション画面から「ヌード表現を隠す」のチェックを外せば遺体のモザイクが取れますよ。

UPDATE:見出し及び記事中の誤字を訂正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございました。

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