【ひのみやぐら】油断で起こるヒューマンエラー

1メートルは一命とる――。低い箇所からの墜落でも、身体の打ちどころによっては、命とりになりかねないという意味を持つ安全講話ではお馴染みの言葉だ。作業をするときは、低い箇所といえども安全に配慮し、気をつけなければならない。今号、「安全衛生眺めてみれば」では徒然草の一節、「高名の木登り」を用いて油断や自信過剰が原因となるヒューマンエラーについて注意を呼びかけている。

毎日の繰り返しの行動のなかで、問題のない状態が長く続くと人間の心理として「このくらいなら大丈夫だろう」と妙な自信がつく。「高所作業で一時的なら安全帯を使用しなくても落ちないだろう」自動車の運転ならば、「多少制限速度をオーバーしても事故になることはない」と禁止事項となっていても、問題となる行動をとってしまうことがある。「分かってはいるのだけれども、軽い気持ちでつい…」というのも、油断や自信過剰と共通するだろう。熟練者の場合、エスカレートすれば「おごり」にもなってしまい、問題行動をとっても改めようとしなくなることがあるかもしれない。

不安全行動は、「意識的不安全行動」と「無意識的不安全行動」の2つに分けられる。油断や自信過剰は「故意」によるもので、意識的不安全行動に分類される。見間違い、勘違い、パニック状況のときの心理状況とは違い、人間の「悪しき心」から生じるので、自分自身の行動を意識していく必要がある。

対策として有効なのは、「安全衛生眺めてみれば」の本文中にもあるように、「見える化」が挙げられる。階段の下から3、2、1と表示するなどして、安全を意識するように仕向けたい。「一呼吸運動」の励行も効果がある。立馬から降りようとするとき、機械などを始動させる前など、一旦頭の中をニュートラルにして、一呼吸してから、次の行動に移る。

経験上、今まで災害が起こっていなかったとしても、今後1回でも災害に遭えば、取り返しがつかないことになる。危険を感じる能力が鈍くならないよう、作業や現場を「甘く見る」ことのないように緊張感を維持したい。

© 株式会社労働新聞社