「飼いたいけど…」 都心の人気スポットで保護猫・保護犬の里親会 譲渡先が決まりにくいワケとは

東京・赤坂サカスで行われた里親会【写真:峯田淳】

猫を家族の一員としてお迎えする方法として、保護猫の譲渡を選択する人が増えています。そうした保護猫をお世話し、行き場を失っている猫の命を守るため、積極的に行動している人たちが少なくありません。コラムニスト・峯田淳さんが、保護猫活動について連載する企画。今回は都内で行われた里親会の様子をレポートします。

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猫が脱走しないように入口と出口を管理

4月に入って、我が家の元保護猫、三兄弟をお世話してくれた伊藤真澄さんから電話がありました。「今度、TBSで里親会があるから見に来ない?」というものでした。TBSの番組などで里親会を取り上げるのかと思ったら、まったくの見当違いでした。

赤坂のTBS本社の玄関前には赤坂サカスというイベント広場があります。そこで犬と猫の大きな里親会があって、三兄弟のうち真ん中の「クールボーイ」、末っ子の「そうせき」を譲渡してくれた熱海のNPOくすのきも猫の里親を募集するということでした。

我が家の三兄弟(手前から)そうせき、ガトー、クールボーイ【写真:峯田淳】

余談ですが、これまで譲渡という言葉は使ってきましたが、里親という言葉はできる限り避けてきました。私自身の生い立ちが理由です。両親が生後すぐ離婚しました。どんな理由があったのかわかりませんが、その後どちらも行方知れずになり、里子に出されるかどうかという境遇に突き落とされました。そんな原体験が、多くが捨てられるか、里子に出される猫とどこか重なっている気がしてしまうのです。それがたぶん、猫への愛着の一因です。里親、里子ではなく、無意識に譲渡という乾いた言葉を使おうとしてきたのだと思います。

それにしても、かわいい猫たちの多くが里子に出されるわけです(犬にも当てはまることですが)。他人事と思えません。

4月27日、赤坂サカスに出かけました。広場入口には「赤坂サカスいぬ ねこ里親会&赤坂マルシェ」の看板、その奥にはTBSの社屋が見えています。主催は赤坂サカスいぬねこ里親会実行委員会、後援・TBSホールディングです。

広場を歩いていると猫がどこにもいません。全部犬でした。キョロキョロしていたら向こうから手伝っている伊藤さんが歩いてきました。お昼に行こうとしていたところでした。「猫は横の建物の2階でやってるよ」と教えてくれました。建物奥の階段を上がると、スタッフがいてアコーデオン式扉がありました。猫が脱走しないように入口と出口をきちっと管理していました。

NPOくすのきの猫リオナちゃん【写真:峯田淳】

「多頭飼いが崩壊して連れてこられた猫」も

扉を開けると、やっぱりそこは猫の海です。参加しているのは猫の6団体、数十匹。左奥のくすのきのブースに代表の那須美香さんもいました。挨拶し、差し入れなどしてから見て回りました。部屋がそんなに大きくないのと来場者が多いために、歩くのも大変なほどでした。さすが人気の広場だけのことはあります。

くすのきの赤いネクタイの「リオナ」ちゃんがジッとこちらを見ていました。2021年に死んだ我が家の「ジュテ」と同じハチワレ猫です。ランチから戻ってきた伊藤さんに「また飼いたくなるんじゃない?」と話かけられましたが、三兄弟で目いっぱいだし、年齢的にも無理です。この日は見学だけです。

まだ猫を飼ったことがない若い夫婦、「飼っていた2匹のうち1匹が死んで」と涙ぐんでいる中年夫婦が、那須さんに熱心に気になる猫のことを聞いていました。

ケージの中でゴソゴソしている猫がいて、那須さんが慌てています。トイレがうまくできなくて、敷いてある新聞紙におもらししたようです。「多頭飼いが崩壊して連れてこられた猫なの」と那須さん。「最近はたくさん飼っていたけど限界がきてというケースも多い」とも。

赤坂サカスの広場で行われていた保護犬の里親会会場【写真:峯田淳】

「飼いたいけど…」 なかなか譲渡先が見つからない理由

悩みは里親会をやっても、なかなか譲渡先が見つからないことのようです。この日の場合、来場者は人気エリアに来たついでに覗いてみたという若者なども多く、本気で猫を飼いたいと思っているわけではないという事情もあります。

20代の女性グループのひとりに「飼いたいの?」と聞いてみました。すると、「飼いたいけど、うちのマンションは飼えないので」とやはり見るだけのつもりだったようです。

実際、マンション住まいで飼えないケースは多いと思いますが、これは解決できる問題です。猫に限ると賃貸の場合、引っ越す時に爪とぎの原状回復などの問題はありますが、分譲なら猫の習性として納得すればいいだけの話です。

住人の猫アレルギー問題もありますが、それも室内に限ればクリアできます。以前住んでいたマンションでは、1~2匹の猫や小型犬を飼うことができるように、マンション規約を改正しました。それ以後、何も問題は起きていないようです。

猫を引き取る環境がもっとあれば、猫が生きていくことができる可能性は広がります。赤坂サカスの猫の譲渡会も里親を決めるのに苦戦したようです。イベントが増えても、受け入れる環境が増えないと問題解決しないということです。

峯田 淳(みねた・あつし)
コラムニスト。1959年、山形県生まれ。埼玉大学教養学部卒。フリーランスを経て、1989年、夕刊紙「日刊ゲンダイ」入社。芸能と公営競技の担当を兼任。芸能文化編集部長を経て編集委員。2019年に退社しフリーに。著書に「日刊ゲンダイ」での連載をまとめた「おふくろメシ」(編著、TWJ刊、2017年)、全国の競輪場を回った「令和元年 競輪全43場 旅打ちグルメ放浪記」(徳間書店刊、2019年)などに加え、ウェブメディアで「ウチの猫がガンになりました」ほか愛猫に関するコラム記事を執筆、「日刊ゲンダイ」で「前田吟『男はつらいよ』を語る」を連載中。

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