【国の指示権拡大】事前協議は必要だ(6月11日)

 大規模な災害や感染症流行などの非常時に、国が自治体に対応を指示できるようにする地方自治法改正案が参院で審議されている。自治体からは「対等」を原則とする国と地方の関係への影響や政府による恣意[しい]的な運用を懸念する声が上がる。国は地方が抱える不安を払拭するため、事前協議の在り方など議論を尽くす必要がある。

 新型コロナの集団感染が大型クルーズ船で発生した際、自治体の役割である患者受け入れの調整が難航した経緯などを踏まえ、国は迅速な対応を可能にしようと法制化を目指している。既に指示権はさまざまな法律で認められている中、改正案では「国民の生命等の保護のために特に必要な場合」は該当する個別法がなくても指示できるとした。

 これに対し、個別法で対処できない具体的な事例の提示を求める質問が国会審議で相次いだものの、政府側は「現時点で想定し得るものはない」と繰り返している。対象を限定できないのであれば、政府の解釈次第で地方が望まぬ強権発動が可能になるとの指摘もある。乱用を未然に防ぐ担保は不可欠と言える。

 国は自治体から事前に意見の提出を求めるよう努めると法案に規定されてはいるが、事前協議の義務化には踏み込んでいない。そもそも、非常時に特定の手続きを踏む時間を確保できるのかといった問題もある。地方分権一括法で両者は「対等」とされている。国は自治体の考えがしっかりと聞き入れられる仕組みを構築すべきだろう。

 想定外の事態に対し、国が最善の解決策を示せるとは限らない。現場を熟知する自治体と話し合うことで、対策の実効性が増す場合もある。自治体との連携を図れるような指示こそ、国民の生命を守るために重要ではないか。

 指示権の拡大によって、地方の自主性が損なわれるとの見方もある。国の指示を待つ自治体が増え、自らの判断で初期対応に取り組む意識が薄まる可能性があるという。国は非常時の地方の判断を尊重し、財政面での支援も充実させるべきだ。

 地方自治にとって不利益な法改正は許されず、首長、議員らは監視の目を強めていかねばならない。国会には将来に禍根を残さない慎重審議を求めたい。(角田守良)

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