【ふるさと納税】存在感高める努力必要(6月12日)

 県内59市町村への昨年度のふるさと納税による寄付額(速報値)は89億円となり、過去最高を更新する見通しとなっている。人口減少が進む中、自治体の財源不足を補う機能は重みを増している。制度の趣旨に外れる過度な競争は避けつつ、地域の存在感を高め、関係・交流人口を拡大するきっかけにしてほしい。

 県の現時点での集計によると、寄付額は前年度(確定値)の61億円の約1.5倍に上る。昨年10月から返礼品が地場産品に該当するかどうかといった審査基準が厳格化され、改正前の「駆け込み申請」が影響しているという。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出開始後、県内水産業を応援する寄付が増えたのも要因とみられる。

 会津若松市は昨年度、出品手続きを簡素化したところ、返礼品が約80点増えた。これに伴い寄付額は前年度の約6千万円の3倍強の約2億円に達し、鶴ケ城の整備などに充てる計画だ。返礼品の品ぞろえの充実が寄付額増につながる実例と言える。

 ただ、返礼品の確保が難しい小規模自治体もある。平田村への昨年度の寄付額は46万円だった。農産物を主な返礼品としているが、生産者の高齢化による耕作地の減少などを背景に、数量を十分集めるのが難しいという。

 PRのため仲介サイトを利用するにしても、数百万円の費用がかかる。募集経費は寄付額の5割以下とする国の基準がある。村の担当者は「広報費の一定額までは募集経費に含めないといった措置がなければ、思い切った宣伝はできない」と訴える。国は市町村の事情や寄付額の規模に応じて、基準を柔軟に設定する必要があるのではないか。

 国の昨年度の調査によると、自治体の約16%は受け入れ額か活用状況のいずれかしか公表していない。約3%は受け入れ額と活用状況とも示していない。公表は義務化されておらず、県内でもホームページなどで具体的な使途を示していない自治体が見受けられる。

 ふるさと納税がどのように役立つのかを知ってもらうのは、寄付先を選ぶ動機付けにもなる。全国各地から寄せられた支援に謝意を示すためにも、運用状況をつまびらかにする取り組みも求められるだろう。(渡部総一郎)

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