森保ジャパン、格下シリア相手に引き締まった戦い。これだけの試合をする代表チームは世界を見渡してもなかなか存在しない

日本代表は6月11日、北中米ワールドカップ・アジア2次予選でシリアとエディオンピースウイング広島で対戦。5-0で完勝を収めた。

森保一監督は、すでに2次予選でのノルマを果たした後のラスト2戦を「テストマッチ」と意義づけた。

シリアは、直前に対戦したミャンマーとは明らかに次元の異なるチームだった。ミャンマーは前線へのアイデアさえ皆無だったが、シリアの選手たちは悪くない水準の技術を備え、バレンシア時代には2年連続して欧州チャンピオンズリーグ決勝に進出したエクトル・クーペル監督指揮の下で、後ろ重心になり過ぎずオーソドックスに勝負を挑んできた。

移動も含めて中4日の日本代表で、2試合連続してスタメン出場したのは、中村敬斗と堂安律の2人だけだった。おそらく中村は勝利を引き寄せるのに不可欠という判断で、一方、堂安にはウイングバック起用という実験と、東京五輪などで証明された久保建英との相性の良さが買われたに違いない。

実際、中村は初戦と同じ左ウイングバックでプレーし、今度は縦に仕掛けて精度の高い左足のクロスという武器を見せつけ、上田綺世の先制ゴールを演出し、快勝劇の口火を切った。ミャンマー戦で見せたカットインからのシュートとは別の特徴を示したことで、また一歩レギュラーの座が近づいたはずだ。

堂安の重用には、充実のシーズンを送り、好調維持を確認した指揮官の厚い信頼が透けて見えた。右サイドに位置するレフティなので必然的にカットインして運ぶケースが増えるわけだが、久保とは阿吽の呼吸でポジションを替えながら互いの長所を引き出し合った。

また、軽快な動きやアイデアあるアタックだけではなく、圧倒的な守備への献身も高評価を支えている。そういう意味で中村と堂安は、ミャンマー戦を経てレギュラー格が出揃うシリア戦へのサバイバルを果たしたという見方もできる。

日本代表選手たちは、目の前のシリアというより、全てのサッカー少年たちの憧憬の的となる日の丸をつけて、ピッチに立つ権利を懸けて戦っているようだった。かつてドイツでデュエルの王様になった遠藤航は異次元の存在だったが、今では前線から誰もが競うようにボール奪取のためにフルスプリントを繰り返す。

淡々と優雅に攻撃面で違いを見せてきた鎌田大地までもが、ミスした後に誰よりも速く次のアプローチへと動き出し、イエローカードも辞さない。もちろん、まだ日本は世界の頂きに立っているわけではない。しかし、予選のノルマは達成済みだというのに、明らかな格下を相手にこれだけ引き締まった試合をする代表チームは、世界を見渡してもなかなか存在しない。

【PHOTO】日本代表のシリア戦出場16選手&監督の採点・寸評。3人が7点の高評価。MOMは2点に関与した左WB

この2戦は、若いJリーグ選抜を送り出し、代表の底上げを図ることもできた。だがあえて森保監督は、コアメンバーを招集し戦術転換の試運転の場に充てた。

ミャンマー戦に続きシリア戦でも3-4-3が機能することを確認すると、後半開始からは中村から伊藤洋輝という最小限の交代で4-3-3(4-1-4-1)に変更。これで歯車がかみ合わないと判断すると、再び相馬勇紀を送り込み、ワイドな展開を復活させ4-2-3-1気味に変更して突き放した。

アジアで戦う日本は、欧州や南米に比べれば格段に不利な条件下に置かれている。それだけに本大会で目標に近づこうとすれば、せめて準備面では先手を打ち続けていく必要がある。結局、2次予選のラスト2戦は、独走状態を逆手に次の舞台への実験の場とした。

そしてそれは3次予選も同じだ。グループで2位以内なら来年6月に本大会への出場権を獲得できるわけだが、順調に勝点を積み上げれば3月頃には決められる可能性もある。逆に3位以下なら4次予選、さらには大陸間プレーオフと続くので、その分だけ本大会を見据えた準備は後手に回る。

些細なミスでも目立ってしまう格下との対戦では、むしろ競争の渦中にある代表選手たちの緊迫感が伝わってきた。その点で頑ななまでに代表チームの敷居を下げない指揮官の狙いは奏功しているのかもしれない。

どんなレベルで活躍している選手でも、日本代表戦では一瞬たりとも気が抜けない。それが指揮官のマネージメントの賜物なのかどうかはともかく、日本にそういう文化が醸造されつつあるのは確かだ。

取材・文●加部究(スポーツライター)

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