【書方箋 この本、効キマス】第69回 『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』 田中 洋子 編著/鬼丸 朋子

処遇改善の方法示す

コロナ禍で対面形式を前提とした社会経済活動に大きな制限が課されるなかで、取引先や顧客と対面で接する人々や、ものづくり、物流の最前線で働く人々など、いわゆるエッセンシャルワーカーが本当に欠くことのできない存在であることが再認識された。にもかかわらず、「社会に不可欠な仕事の処遇はなぜ悪いのか?」(7頁)。この問いは極めてシンプルであるが、答えようとすると途端に言葉に詰まる。

日々お世話になっているはずのエッセンシャルワーカーの労働実態、たとえば、どのような雇用形態で、どのような仕事をこなし、どの程度の処遇を受けているのかについて、自分があまりにも断片的な情報しかもっていないことに気付かされるからだ。

本書は、知っているようで実はよく知らないエッセンシャルワーカーについて、まず「〈民間/公共サービス/社会保険サービス〉、〈日本的雇用における正規/非正規〉、〈男性中心/女性中心/それ以外〉、〈雇用/委託・請負事業主・フリーランス〉」(13頁)の組合せから捉えている。そのうえで、(a)小売業における主婦パート、(b)飲食業における学生アルバイト、(c)公共サービスの担い手の非正規化・民営化、(d)女性中心の看護・介護職、(e)委託・請負・フリーランスの担い手、の5つの類型に分け、それぞれの仕事・業種に即して、その労働実態を具体的に解明するとともに、処遇が悪化していく要因を歴史的に分析している。さらに、ドイツを例にとったエッセンシャルワーカーの労働実態と処遇の国際比較も試みられている。

読み進めていくうちに、スーパーマーケット従業員、外食チェーン従業員、保育士、教員、看護師、介護士、自治体相談支援員、トラックドライバー、建設現場で施工する人(一人親方)、アニメーター、ごみ収集作業員――などのそれぞれの現場で何が起こってきたか、何が起こっているかを「知る」ことができる。さらに、広範な業種でエッセンシャルワーカーの処遇が切り下げられていく状況を歴史的な視点から捉え、社会に不可欠な仕事の処遇が悪くなっていく仕組みが「政策的につくりあげられたものである」(374頁)とする指摘は、今後この分野に関して議論を積み重ねていく際に1つの重要な示唆となるだろう。

ドイツの例をみると、日本のエッセンシャルワーカーの働き方を生み出している仕組みは固定的なものではなく、取組み方次第で変えられるものであるし、早急に更新される必要があることが見えてくるだろう。

本書は、自分にとって、社会に不可欠な仕事の処遇が良くなっていく仕組みに変えていくために必要な「エッセンシャルワーカーが抱える理不尽さに対する関心」を高め、読了後に自分の想いを誰かに伝えたい気分にさせてくれた1冊である。この分野に興味関心がある方は、試しに自分の興味関心のある仕事の実態の部分に目を通してみてほしい。

(田中 洋子 編著、旬報社 刊、税込2750円)

選者:中央大学 経済学部 教授 鬼丸 朋子(おにまる ともこ)
九州大学卒、國學院大学経済学部教授を経て、2015年より現職。著書に『職業の経済学』(中央経済社)、『賃金・人事制度改革の軌跡』、『よくわかる社会政策』(いずれもミネルヴァ書房)など。

レギュラー選者3人と、月替りのスペシャルゲストが毎週、書籍を1冊紹介します。“学び直し”や“リフレッシュ”にどうぞ。

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