和菓子店の店主が「マジかよ!?」 アルバイト歴5か月が作った上生菓子の仕上がりに驚きの声が殺到

才能あふれるアルバイトのMさんが話題になった、和菓子處 吉祥庵【写真提供:黒和@和菓子處 吉祥庵 (湘デコ)(@kurokazu_45)さん】

伝統的な職人技が光る、繊細な上生菓子。なかでも特別な贈り物としてもぴったりな「はさみ菊」は、菊の花弁を1枚1枚、はさみで切り出します。そのため、美しく仕上げるには長い鍛錬が必要です。X(ツイッター)では、なんとアルバイト歴たった5か月で作ったとは思えない仕上がりのはさみ菊が、4.3万件もの“いいね”を集め大きな話題に。投稿した和菓子處 吉祥庵の店主・黒田和比古(黒和@和菓子處 吉祥庵 (湘デコ)/@kurokazu_45)さんと、アルバイトのMさんに詳しいお話を伺いました。

◇ ◇ ◇

「試しにはさみ菊を切ってみよ~」 驚きの結果に

創業32年目の和菓子處 吉祥庵。気さくな2代目店主、黒田さんが作るインコの形をした上生菓子が大人気で、連日多くのお客さんが訪れています。

話題のはさみ菊を作ったアルバイトのMさんは、もともとお菓子作りが好きで、和菓子作りの工程にも興味があったそう。そして、お客さんとして吉祥庵を訪れた際、その上質な味わいはもちろんのこと、店主と店主のお母さんが醸し出す和やかで親しみやすい店内の雰囲気に惚れ込み、アルバイトに応募しました。

昨年の大みそかに働き始め、精力的に仕事に取り組んでいたというMさん。すると、黒田さんからオカメインコの冠羽の切り込みに挑戦していいと許可がもらえました。しかし、最初はハサミの角度などが分からず、羽根の根元を切ってしまったり、ゆっくりやりすぎてあんこが伸びてしまったりと四苦八苦していたといいます。

その後、何度か丸い練り切りで練習させてもらい、商品を任せてもらえるように。そして、100羽以上切ったMさんに、黒田さんは合格点を出すと「試しにはさみ菊を切ってみよ~」と提案したそうです。

こうしてはさみ菊に挑戦し始めたところ、Mさんは驚きの才能を見せます。なんと4個目にして、餡を包むところから、菊の花びらを切り出すところまで、ひとりでやってのけてしまったのです。しかも、アルバイト歴5か月とは思えない仕上がり。

黒田さんが「マジかよ?! きれいに切っちゃったよ」と驚きの声を添えて、その写真をXに投稿したところ、なんと4.3万件もの“いいね”が。リプライ(返信)にも、「センスありすぎじゃない!?」「バイトでもこんなすごい技能持ってるの? 練習だけでなくて天才的なセンスなんでしょうかね」「才能……!! 見つけてしまったー!!」など、驚きの声があふれました。あまりの反応の多さに、「ひとりづつ返信できずごめんなさい」と黒田さんはいいます。

アルバイト歴5か月のMさんが、4個目にして包餡から行ったはさみ菊【写真提供:黒和@和菓子處 吉祥庵 (湘デコ)(@kurokazu_45)】

包餡から成形まですべてひとりで

黒田さんは当初、はさみ菊にはオカメインコとは違う難しさがあり、これほどスムーズにうまくできるとは思っていなかったようです。

「冠羽は1枚切るだけですから、多少大きさにバラツキがあってもわかりません。しかし、はさみ菊は横1列すべての切り込みを、同じ大きさにそろえる必要があります。前の週に1個目を練習したときは、1段目を切ってから渡して、2段目を重ねて切るように指導しました。すると、いきなりそれなり以上にできてしまい、そのまま最後まで完成させてしまったんです」(黒田さん)

Mさん本人よりも「びっくりしていました」と黒田さん。あまりに驚いて、そのはさみ菊を乾燥させ、先代であるお父さんの仏壇に飾ってしまったといいます。

一方、Mさん自身は作っている最中、いろいろな難しさを感じていたそうです。

「はさみを入れる作業のみですと20分。包餡も含めると1個作り上げるのに30分ほどかかっていると思います。包餡に時間がかかってしまったため、手の熱で生地が柔らかくなり、切り口が伸びて切りにくく、花弁1枚の大きさをどれくらいにすれば良いのかがわからず難しかったです」(Mさん)

素人目には、花弁の大きさはほぼ均一に見えますが、「うまく1周を切り終えることができなかった」とMさん。「まだまだ発展途上なので、上手く切れるようになるにはまだまだかかると思います」と、これからも研鑽を続けていきたいと語ります。

Mさんが両親とともに抹茶で楽しんだ実際の様子【写真提供:黒和@和菓子處 吉祥庵 (湘デコ)(@kurokazu_45)】

驚きの仕上がりにMさんの両親も大喜び

ちなみに、4個目のはさみ菊は、両親には内緒で自宅に持ち帰り、とても驚かれたそう。食べるのがもったいないと話しながら、家族で取り分けて味わったそうです。

「見せたときの、母の野太い歓声が忘れられません(笑)。以前、練習2回目のはさみ菊も持って帰っていたので、前よりもうまくなっていると両親からもほめてもらえたのがうれしかったです。実は、あのはさみ菊の餡は、特別に私の好物である柚子餡にさせてもらったので、ペロッと食べてしまいました」(Mさん)

黒田さんによると、あくまでも仕事を頑張ったご褒美として終業後に行っている、練り切り教室の一環のため、Mさんが作ったはさみ菊が店頭に並ぶ予定はないそうです。けれども、Mさんが今年の夏にある、おじいさんの新盆法要のお供えを自分で切りたいと話しているため、黒田さんは8月を目指して何種類かバリエーションを教えていきたいと考えています。

黒田さんが2015年に品評会に出品したはさみ菊【写真提供:黒和@和菓子處 吉祥庵 (湘デコ)(@kurokazu_45)】

亡き父との思い出が詰まったはさみ菊

実は、Mさんのはさみ菊が話題になったあと、黒田さんが2015年の品評会に出品したはさみ菊の写真をXに投稿したところ、あまりの美しさに14万件もの“いいね”が寄せられました。黒田さんが作る美しいはさみ菊には、亡きお父さんとの思い出が詰まっています。

「私がはさみ菊を習得したのは、専門学校に通っていた頃でした。それというのも、学校での練習中に高価なハサミを折ってしまい……使えるようにするため、当時の担任の先生がグラインダーで削り、それをさらに学校の外部講師でもあった亡き父と私で、ヤスリで削り込みました。すると、とんでもなく切れるハサミが爆誕して、私は練習にのめり込みました」

そんな思い出と修行の成果が詰まったはさみ菊は、店頭でのみ予約販売しており、現在予約は7月分から受けているそうです。予約は1週間前までに電話でのみ対応。はさみ菊は要冷蔵で、日持ちは翌日までになります。

「切り方は食べることを考え、販売できるものに限らせていただきますが、お祝い用、お供え用など、色はご指定いだけますので、私が電話口にてご提案させていただきます」とのこと。愛情あふれる吉祥庵のはさみ菊は、特別な人とぜひ味わってみたいですね。

○和菓子處 吉祥庵
住所:神奈川県高座郡寒川町倉見3830-7
電話番号:0467-74-8247 (混雑時には出られない場合があります)
定休日:月曜・第2、第4火曜
※XやインスタグラムのDMでの予約は承っていません。

© 株式会社Creative2