スイスで相次ぐATM襲撃事件 手口は「巧妙かつ残忍に」

昨年2月にスイス西部​​ビエールでATMが襲撃された。警察は今も犯人の行方を追っている (Keystone / Jean-Christophe Bott)

スイスの国境近郊でATMが爆破され現金が奪われる事件が増えている。外国人犯罪集団による犯行とみられ、政界では国境警備の強化を求める声が上がる。

今月10日午前2時、ベルン州の閑静な村イェーゲンストルフの住民たちは大きな爆破音に目を覚ました。ヴァリアント銀行のATMが爆破され、建物も大きく損傷した。ベルン州警察の発表によると、黒ずくめの3人が走り去るのが目撃された。盗まれた現金の額は不明だ。

その1時間半後、スイス中央部キュスナハト・アム・リギにあるガソリンスタンドに設置されたATMが強盗に爆破された。負傷者はいなかったもののATMは壊れ、店舗も被害を受けた。シュヴィーツ州警察は犯人らがATMの現金を持って逃走したとみている。

スイスやドイツを中心に欧州ではこうした大規模なATM襲撃事件が急増している。国境からそう遠くない町や村で夜間に機械を爆破するケースが多い。

スイス連邦警察広報のメラニー・ローレンソ氏はswissinfo.chに「ATM襲撃はスイスだけではなく欧州全体で増えているが、スイスは今も今後も狙われやすい国だ」と話した。

国境検問をすり抜けて裕福なスイスに侵入し、僻村にある警備の甘いATMを爆破して数千フランを奪い去る外国人犯罪集団――連邦警察はこうにらむ。スイスでは他の欧州諸国よりも現金払いがなお日常的だ。

ATM襲撃は着実に増えている。スイス国内の襲撃は2018年には18件だったが2022年には57件に増えた。固形物やガスで爆破するほか、縄で縛ったり鋼鉄線で引き裂いたりといった古典的手口も使われる。

昨年は全体では32件に減ったものの、爆破される事案は増加傾向が続く。連邦警察によると昨年は19件、今年これまでにも15件が爆破された。

巧妙かつ残忍に

こうした数字も、凶悪性を物語る側面の1つでしかない、と連邦警察は指摘する。先月発表された2023年の警察白書は、犯罪集団は「独創的で高度に組織化され、素早く、これまでになく冷徹になった」と述べている。

爆発事件の約半数はルーマニアの犯罪集団の手によるものだ。白書によると、20年前からスイスのほか欧州全土でATMを襲撃してきた。

連邦警察の調査によると、犯罪者は計画や兵站の拠点として近隣諸国に建物を借りている。通常3~4人で襲撃し、複数の車両(盗難車も含む)と偽のナンバープレートが使用されることが多い。

スピードが重要で、連邦警察によれば、襲撃には4~5分しかかからない。ATMから現金を抜き取るための腕力も必要だ。

連邦警察によると、他の襲撃の多くはオランダの犯罪者集団によるもので、モロッコ出身が多いという。

「若者が多く、ATM襲撃を音楽に乗せて動画配信するようなサブカルチャーの一環だ。スイスのカジノで盗んだ金を洗浄(ロンダリング)し、麻薬取引の購入資金に充てている」(警察白書)

対策・予防策

これまでのところ、犯人の逮捕や有罪判決に結びついた事件は一握りだ。ATM爆破犯に対する最初の有罪判決は2021年、ルーマニア国籍の男に対する懲役74カ月の懲役刑だった。2022年にはオランダ国籍の男がスイスのATM爆破を画策したとして連邦検察に起訴された。連邦警察は2023年、フランスやオランダ、ドイツなどの当局と協力し、数人の逮捕に辿り着いた。

予防策も講じ始めている。スイス連邦警察は昨年、ATM爆破対策を検討するため金融機関などと会合を開いた。ローレンソ氏によると、銀行やATM運営・製造業者との2回目の会合を今秋開催する予定だ。

住民たちにとっては爆破による恐怖だけでなく、地元のATMが永久に失われるという問題もある。

ヌーシャテル州立銀行は11日、先月27日にラ・ブレヴィーヌ村で起きた襲撃を受け、国境近くのATM数台を閉鎖すると発表した。国境に接するジュラ州立銀行も、今年起きた一連の事件を受けて一部のATMの利用を制限した。

政界の動き

政界も動き始めた。一部報道によると、スイス国民党(SVP/UDC)は国境地域の警備強化を求める動議を議会に提出する方針だ。24時間体制の移動国境警備隊の復活や、主な国境検問所への監視カメラ設置を盛り込む。

並行して、組織的な国境検査を復活させるイニシアチブ(国民発議)を立ち上げた。5月末に必要な数の署名が集まり、将来的に国民投票にかけられることが決まった。

議会動議の旗振り役イヴァン・パユ議員はフランスとの国境に近いサント・クロワに住み、国境警備隊員として働いた経験がある。フランス語圏の大衆紙ル・マタン日曜版に「私が2000年代に訓練を受けたとき、国境検問所は全て24時間体制で警備されていた。やがて小さな検問所は閉鎖され、残った検問所も巡回制に変わった。現在、巡回チームが夜間に活動することはほとんどなく、犯罪者は出入りし放題だ」と語った。

連邦税関・国境警備局(FOCBS)は、必要に応じて監視能力を拡大できるとする。スイス政府は先月、ドイツで開催されるサッカー欧州選手権とパリ五輪の期間中、国境検問を強化すると発表した。

スイス連邦政府は今のところ、ATM攻撃への対策に出遅れている。急進民主党(FDP/PLR)のオリヴィエ・フェラー氏の昨年の質問主意書に対し、連邦内閣(政府)はこの問題に関する専門家会議の結論を待つことを推奨。「それがスイス全土に適用できるベストプラクティスの創出につながるはずだ」と述べた。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正: 大野瑠衣子

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