【社説】日朝会談なき20年 拉致問題解決へ対話急げ

日朝首脳会談が途絶えて20年が経過した。北朝鮮による拉致被害者の帰国も20年以上果たせていない。事態を打開するため、岸田文雄首相には一層の努力を求める。

北朝鮮による拉致被害者は日本政府が認定しているだけで17人おり、うち5人は2002年に帰国できた。04年5月には2度目の訪朝をした当時の小泉純一郎首相と金正日(キムジョンイル)総書記との会談を経て、一部の被害者家族が帰国した。

だがそれ以降進展はなく、残る被害者12人は祖国の土を踏めずにいる。この間に多くの肉親が亡くなった。被害者の親で存命なのは、横田めぐみさんの母早紀江さん(88)と有本恵子さんの父明弘さん(95)の2人だけだ。

肉親と突然引き裂かれた被害者、再会を願いながら命が果てた家族たちに思いをはせると、胸が締め付けられる。

拉致は北朝鮮という国家による重大犯罪である。加えて許せないのは、20年以上にわたってただ一人として帰さなかった北朝鮮の態度だ。反省の様子もうかがえない。

我慢し難い相手ではある。だが、被害者全員の帰国を果たすには、政府間の対話と協議を再開させるほかない。これまでの一部の被害者の帰国も、首脳同士の直接交渉がなければ実現は極めて難しかっただろう。

被害者や家族の年齢も考えると、悠長に構えている余裕などない。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と岸田首相の会談が急がれる。

日朝は水面下で接触しているようだ。北朝鮮は今年2月、岸田首相の訪朝を受け入れる可能性を示した。しかし「拉致問題は解決済み」との立場は譲らず、これを日本が受け入れないとみるや一転して対話拒否に転じた。

このような北朝鮮の揺らぎの背後に見え隠れするのが、ロシアの存在である。

経済不振にあえぐ北朝鮮が狙うのは、外国からの経済援助である。日本との対話の扉を開くような姿勢を見せたのも、見返りとしての支援を当てにしてのことだろう。

ところが、ウクライナに対する攻撃を続けるロシアが弾薬などの提供を求めて北朝鮮に接近したことで状況が変わった。ロシアは北朝鮮に大量の食料などを提供しているとみられている。

一段と固くなった北朝鮮との対話の扉を開けるため、日本側にはこれまでと異なるアプローチも必要だろう。

米韓など関係国の協力も欠かせない。特に期待したいのが、北朝鮮に大きな影響力を持つ中国の協力である。

拉致問題と核・ミサイル開発などの問題の包括的解決を目指すこれまでの姿勢は理にかなってはいる。ただ、一時期のような圧力一辺倒の向き合い方では対話の機会はなかなか訪れないのではないか。

02年の日朝平壌宣言が目指した国交正常化の利益を双方で探りつつ、粘り強く前進を図っていきたい。

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