映画で岩谷麻優を演じるつもりがレスラーに。さくらあや「プロレスは間違いからたどり着いた天職!」

【WEEKEND女子プロレス♯16】

スターダムの“新空手ガール”さくらあやは、キャッチフレーズ通り、空手をバックボーンとしたレスラーである。空手の経験と実績を経てアクションスターを夢見ていた彼女はスターダムのオーディションに応募し、見事合格。ところが、実際には別のオーディションに応募していたことに気づかず…。

空手を始めたのは5歳の頃。「小中学生のときは、すごく空手をがんばってました。小学3年生で(兵庫)県の3位とか、糸東流で全国2位になったり。中学で神戸市優勝もありましたね」

空手で実績を積み上げると同時に、同性のアイドルにもあこがれた。中学時代からさまざまなオーディションに応募していたというが、空手の方に多くの時間を費やしていたこともあり、「引退する高3の頃には、オーディションを受けるのも次第に忘れちゃってましたね」とのこと。それでも、高校生時代に偶然観る機会のあった大衆演劇のおもしろさに魅了され、将来は人前でパフォーマンスする仕事に就きたいと、より強く思うようになったという。

「空手部を引退してから、演劇のワークショップに参加したんです。それでひとつの作品を作ってお客さんを呼んで披露するのがあって、やってみたら楽しくて、楽しくて。進学するなら演劇やりたいとなり、演劇科のある短大に行きました」

短大入学後、最初の夏休みを利用して地元神戸と東京を往復するようになった。東京で舞台に立つ機会に恵まれたからだ。そのとき、地下アイドルに誘われやってみることに。しかし、経費は自己負担の厳しい現実に直面する。

「移動はずっと夜行バスで、経費も出ないからバイトして。それで交通費の方がアイドルのお給料より高い。これが私のやりたいことなのかと悩んでいたところで、グループが不祥事で解散しまして(苦笑)」

短大卒業後、東京で知り合った芸能関係の知人の店で働くようになる。芸能の仕事が入れば、そちらを優先させてもらえるのだ。が、なかなか声がかからない。やがて、彼女がつとめる大阪のカフェバーは売り上げが爆上がり。反対に、オーディションは落ちまくっているというではないか…。

その後、「ひとりでやってみたい」と店を離れ、舞台に上がる機会をうかがっていく。が、世の中がコロナ禍に見舞われ仕事がなくなった。そこで考えたのが、将来のためにアクションを学んでおくことだった。

「『さくらはアクションに向いてるんじゃない?』と、よく言われていたのと、アクション関連の舞台をやったときに空手意外にもマルチにできた方がいいと思ったんですね。それでアクションの勉強をしようと、ジャパンアクションエンタープライズに入るため再び上京しました」

本格派アクション女優をめざす決意を固めた彼女。しかし、こちらも現実は厳しかった。

「1年間養成所でいろいろやっていくんですけども、常にランクがついているような状態で、先生が名前を呼ぶ順番でもランクがわかってしまうんですね。しかもアクションって命にかかわることだから余計に厳しい。そんななかで周りがすごい人ばかりで、これでも真ん中よりは上だったんですけど、同期のトップに立ってやっと先輩たちと闘える。自分はやっぱり向いてないのかなと悩んだりしましたね」

1年間の成果を示す卒業公演が芸能事務所に入るためのオーディションにもなっていたというが、彼女に声はかからなかった。その結果、一度就職しようとなり、マーケティング系の会社でインターンとして働くようになった。とはいえ、芸能界の夢をあきらめたわけではない。働きながらチャンスをつかむ道を選んだのだ。

「事務所に入ることはあきらめて、単発でいいからCMでもドラマでも映画でもやっていこうと思いました。でもやっぱり、無所属で実績もないとなるとなかなか難しくて。なので、一日10件オーディションに応募すると決めて、いろいろ送っていたんですよね。そんななかで偶然見つけたのが『家出レスラー』のオーディションでした」

プロレスラー岩谷麻優の半生を描く映画『家出レスラー』。その岩谷を演じる女優のオーディションに彼女は応募した。プロレスに詳しいわけでもなく、岩谷の存在も知らないままで…。

「プロレスの映画? ってことは、アクションがあるから自分にもできるかなと思ったんですよね」

どうせやるなら主役の“家出レスラー”を演じたい。が、主演でなくてもいい。こうなったらどんな役でもいいからチャンスがほしい、と心境に変化が――。

そして彼女は、オーディション会場に足を運んだ。その場にいたのが、のちに同日デビューをすることになるHANAKO。「こんな大きい子も受けるんだな」というのが第一印象。2人だけの受験者を不思議と思うこともなく、言われたメニューをこなしていった。それはなぜか運動ばかりで、セリフを読むこともない。

「腕立て、腹筋、背筋、ライオン、スクワット、回転運動もやりました。適正テストなのかなと思いながらやってました」

結果は、2人とも合格。「2年ぶりの合格でうれしくなっちゃって」舞い上がった。すると、このあと試合があるから見てほしいと言われ、HANAKOとともに時間までカフェで待つことに。そのときHANAKOといろいろ話をしたのだが、なぜか、どうしても嚙み合わない。そこで気づいた。これは映画ではなく、プロレスラーのオーディションだったのだと!

「ホームページを見て『シンデレラ・オーディション』という方に応募したらしいんです。こっちはレスラーの方で、映画じゃなかった。終わってから気づいて、どうしようとパニックになりました」

その後、学生プロレス出身のHANAKOからプロレスをレクチャーされ、初めての観戦に。その大会は若手中心のスターダム「NEW BLOOD」で、ジュリアvs天咲光由の試合に衝撃を受けた。「私には無理、できない…」。実際、練習に行くかどうかも迷いに迷った。が、「可能性がある」と言われたことで一度行ってみることに。しかし初日のランニングと腕立てで「もう死にそうになりました」。運動好きは変わらないのだが、アクション俳優の養成所とはまったく別の厳しさがあった。練習生として続けていくことに不安をおぼえたのである。

「仕事もあるし、すごい悩んだんですよ。実際、2回ほどさぼってしまいました。そんななかである日、スタッフさんから『すごいポテンシャルのある子が入ったと聞いたよ』と言われて、HANAKOのことですよと言ったら、『違うよ。学プロの子とは別にすごいいい子が入ったと聞いたから、がんばってね』って。私ってそんなふうに思われてるんだ。だったらやるっきゃないって(笑)。そこからメッチャ練習するようになりました」

それでも練習には苦労した。基礎体力からプロレスの動きに移るまでも時間がかかった。しかしながら昨年3・25横浜でのデビューにこぎ着け、プロレス一本に集中。6月にはタッグながら初勝利も挙げた。

ところが、7月8日の富士大会で腰を負傷、椎間板ヘルニアと診断され長期欠場に追い込まれてしまう。その間、次々と新人がデビュー。11月に弓月、12月に玖麗さやか、八神蘭奈。復帰後にはなるが今年3月には梨杏が仲間に加わった。この状況、あせりがないと言ったらウソになる。

「関西での大会ということもあって弓月デビュー戦の日には復帰したかったんですけど、無理。玖麗と蘭奈のデビューまでには…無理。だったら1月の新人王決定戦までに…やっぱり無理と、無理が続いてしまって…」

空手時代を含め、これまでケガをしたことがなかった。それだけに精神的にはきついものがあったが、ラストチャンスとばかりに設定した復帰目標(地元に近い3・16姫路大会)をクリアー。3・10後楽園でリングに帰ってきた。しかもフリフリのニューコスチュームで登場し、中野たむ率いるコズミックエンジェルズ入りをアピール。先にコズエン入りを直訴していた玖麗に宣戦布告する形だ。

「実は入れるならコズエンとずっと思ってました。もともとアイドルが好きだし、自分が表現したいことに一番近いユニットだと思ってたので」

この日から、コズエン入りへの闘いが始まった。玖麗に対しては、「私が休んでる間に何してくれるんだよって思ってました。玖麗がすごく輝いて見えて、悔しかったです。『審査』と言われてますます負けたくないと思って、メッチャ練習量が増えましたね。出稽古にも行きました」

「審査」の末、玖麗、さくらとも晴れてコズエン入りを果たすことに。いまでも「負けたくない」と玖麗にはジェラシーも感じつつ、切磋琢磨できる仲間にもなった。そんな2人が6・21竹芝での「NEW BLOOD13」で、羽南&飯田沙耶組のNEW BLOODタッグ王座に挑戦する。さくらにはいまだに自力勝利がないものの、若手大会だからこその大抜擢。飛躍への大チャンスと言っていい。

それにしても、オーディション違いからレスラーになり、ここまで人生が激変してしまうとは。もしも予定通り映画のオーディションを受けていたとしたら、たとえ何らかの役をつかんでいたとしても、レスラーにならなかった可能性が高いのではないか。

「そうですよね(笑)。いまでは周りから、『プロレスラーに向いてるんじゃない?』って言われるようになりました。空手もアイドルも演劇も、やってきたことがすべてつながってるんですよ。プロレスって、間違いからたどり着いた“天職”なんじゃないかなって思います!」

そしてさくらは、『家出レスラー』にも出演。映画の中で、岩谷ブレイク前の伝説のユニット、たわしーずと時空を超えて対戦しているのである。

※5月17日に全国公開された『家出レスラー』は、6月30日より刈谷日劇にて追撃上映!

<インタビュアー:新井宏>

【写真ギャラリー】撮影:新井宏

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