引きこもり生活2年間から、“スターダムのアイコン”へ 岩谷麻優が語る人生を激変させる方法

岩谷がベルトを首にかけるのは、画面に映りやすいように、という意図があるという【写真:(C)スターダム】

「こんなクズでも人生を変えれた」

現在公開中の映画『家出レスラー』(ヨリコ ジュン監督)は、年商15億円を弾き出したスターダムの“アイコン”岩谷麻優の半生を描いたものである。Xのフォロワー10万人を誇る岩谷は現在、第3代IWGP女子王座に君臨しているが、最近はSareeeやベストフレンズ(藤本つかさ、中島安里紗)といった“外敵”を相手にハードヒットな試合を展開させて来た。今回はそんな岩谷に、「家出レスラー」の反響やそれにまつわる話を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

――先日、岩谷麻優の半生を描いた、映画「家出レスラー」が公開されました。

「映画になるまでは、自分の人生って面白いんだろうか。自分自身の経験だから、客観的に見れないわけじゃないですか。だから、大丈夫かなって。本当に映画になるの? みたいな気持ちがすごく強くて。本当に最初の企画の段階から公開するまで2年半かかってるんですけど、公開目前になって、スターダムの分裂とかもあって、これ、お客さんが違う目線で見ちゃうんじゃないかなとかっていう不安もすごくあったんですけど、公開してみれば、すごい良かったっていう声が多かったし、本当に皆さん泣いてくださってる方も多くて。自分も実際に映画館に何回か足を運んで、変装して見に行ったんですけど、結構『ここで泣いてるんだ』とか。『そういう感じなんだな』とか思ったことも多かったです」

――率直に面白かったです。

「ありがとうございます。自分が引きこもりで何も人生の先がない中で、プロレスっていうものに出会って、プロレスに人生を変えてもらって、今ここまで来れてるわけじゃないですか。そういう人たちってたくさんいると思うんですよ。今、この先、将来何もすることがない、生きる意味もない、生きがいもない。この先どうしていいか分からない、人に会うのが怖い、嫌だもん。人間と関わりたくないとかっていう、誰かしら、何かしらの思いを抱えてる方に何かひとつでも刺さってもらえたらいいなって」

――勇気を与えられたいいですね。

「はい! 自分みたいな、2年間引きこもりでホントにポンコツだった自分が、好きなものを1個見つけるだけでこんな人生が変わって、そこで自分の人生を変えることができて、とかっていう、こんなクズでも人生を変えれたんだな。じゃあ私も、俺も、これ好きだし、なんかちょっと、いや、なんかライブとか行ってみるかとか、そういう誰かのきっかけになってくれればいいなっていう思いで作ったので」

――周りの評判はいかがですか。

「実際、メッセージとかもすごくいっぱい来るんですよ。救われましたとか、プロレスとか知らなかったけど、予告編で気になって見てみたら引き込まれましたとか、終わってみればっていうか、まだ公開中ですけど、この映画が完成してから、作ってよかったなって。こういう機会を作ってくれた会社にもすごく感謝だし、こんな現役の、まだキャリア13年の女子レスラーが映画化ってないじゃないですかね。この引きこもりがですよ? すごくないですか? だから自分自身、不思議な人生歩んでるなって思いますね」

27日には映画「家出レスラー」感謝祭として岩谷単独のイベントが開催される

「世IV虎ちゃん、別にそんな悪くない」

――2015年の顔面殴打事件も映画では描かれましたがあの場にいた一人として何を感じていましたか。

「自分は本当に世IV虎(現・世志琥/シードリング所属ながら現在は欠場中)とは寮で一緒の部屋だったりとか、同期で一番仲が良かったりして。試合の後も世IV虎が去った後すぐ追いかけて行って。そこからもう家に帰るまでとかをずっとそばで一緒にいたので。正直、世IV虎ちゃん、別にそんな悪くない。殴ったこととか、そういうことは良くないですけど。な、なんて言うんでしょうね……]

――何が起こるか分からないからこそプロレスだと思うんですね。

「そうですね。でも1個言えるのは、自分がああいう試合をするのは嫌だ。ダメですね、あれは。ダメっていうことは分かる。でも、ありえなくはないことなんですよ。ホントにプロレスは闘いだから、ありえないことはないわけだから。てか、なんならそういう因縁とかがある試合だと、そういう可能性しかないじゃないですか。だって自分とSareeeだってそういう試合になる可能性もあったし」

――Sareee戦は想像した以上でしたか。

「想像以上でしたね。やっぱね。エルボー1発も本当に最初警戒してたんですよ。だからどうやって避けるかとか、どうやってガードするかとか、すごく考えてたんですよ。でも、自分が走って戻ってきたところにカウンターのエルボーを1発目入れられた時に、アゴにヒジの先端がガーンって入って、その瞬間に自分崩れ落ちたんですよ。なかなかエルボーで崩れ落ちるってことないんですけど、その瞬間、あ、ヤバいヤバいヤバいヤバいみたいな。

でももうそこから自分はもう本当にスイッチが入って。スイッチが入ったところで裏投げとか食らっちゃったらヤバいじゃないですか。だけど3連発か4連発ぐらい食らって。そしたらもう試合中はヤバいとか思わなかったです。もう何も考えることもできないぐらいSareeeしか見えてなかったので本当にお客様が失礼ながら全く見えなかった。目の前の敵で精一杯というか、本当にただガムシャラに闘って。痛かったですけど、終わってみればいい痛みでした」

――不穏試合にはならなかった。

「はい。でも難しいですよね。自分たちからしたら、もしかしたらそういう、数年に1度そういう試合もあるのかもしれない。昔は神取忍さんとか……」

――ありましたね(1987年7月に行われたジャッキー佐藤戦)。

「じゃないですか。だから数年に1度はあり得ることなんですよ。だから誰がそこをやるか、誰がどうなるかっていうところなだけであって。なる時はなる。でも一般のお客さんからとかしたら、あれ、やっぱ壮絶な試合だったと思うので、なるべくないようにはしていかなきゃなっていうのは思っていますね」

猪木直筆の「道」の書の前で取材は行われた

「ラスボス級ばかり出てくる」

――Sareee戦を含め、ルールや暗黙の了解を超えて、ブチギレる瞬間みたいなことは、過去にあったんですか。

「いや、自分はあまりないですね。だけど、アントニオ猪木さんとかってヤバいじゃないですか。(対戦相手の)目に(指を入れた)……」
――自伝によると、生涯で3回、相手の目に指を入れたような凄惨な試合があったと書かれています。

「ですよね。す、すごいじゃないですか。だから、もし自分がそういう立場になったとしたら、やり返す力とか、やり返す気持ちはないなって思いますね。ましてや目に指を突っ込むとか……」

――でも、ヤらないとヤられるとなったら、自然とやり返すというか、防衛本能が働くんじゃないかと……。
「そう……なんですかね。自分はまだ、そこまでの試合をしたことがないんだと思います」

――では、最後に第3代IWGP女子王者として、改めて今後の抱負というか意気込みをもらえたら。

「やっぱり自分は初代になりたかったんですよ。だけど初代王者決定トーナメントの決勝でKAIRIに負けてしまって。初代になれないんだったら、もう自分がスターダムにいる意味もないし、もうこのベルトもいらないって自暴自棄になったこともあるんですけど、その後に第2代がメルセデス・モネで、そして岩谷麻優がこの3代目のチャンピオンとしてここにいる。モネからベルトを奪ったこともすごくデカいと思ってるし」

――自信につながったと。

「はい。IWGP女子のベルトってスターダムの管理ベルトじゃないんですよ、これ。新日本プロレスさんの管理するベルトだから、いわば預かっているものだけど、自分がチャンピオンなら好き勝手してもいいじゃないですか。だったらこのベルトって別にスターダムだけじゃないところで争ってもいいし、海外でももちろんできますし。

IWGPに自分の色をつけるには、Sareee戦みたいなバチバチの試合とか、(アイスリボンの)藤本つかさとか(シードリングの)中島安里紗とかもやりたいなって思いましたし。あともっと自分はもう1人、自分のライバルだと思ってる他団体の選手がいるので、それはちょっとまだ言わないですけど、その人ともやりたいって思っているし。いろんなことに挑戦していきたいなって。そういう意味では、無限大の可能性を秘めているんですよ、本当に」

――厳しい試合が増えそうですね。

「みんなラスボス級ばっかりが出てきているので。自分、これはスターダムの選手ですけど、朱里さんとやった試合(2024年1月4日、東京ドームシティホール)も自分のベストバウトだなって思う試合ができたんですよ。その後、今度はSareeeとやって、これも自分のベストバウトだと思える試合ができて、 本当、IWGPのおかげで、自分の最高を超えてこれてるんですよね。だからまあ、藤本戦はどうなるかわからないし、もしかしたらまた最悪、流れちゃうかもしれないし(※2016年にスターダムとベストフレンズ絡みの試合が流れた前歴がある)」
――どうなるか分からない。

「そういう過去があるので、今回も当日になるまでどうなるか分からないですけど、目の前の敵を倒していくだけですね」“Show”大谷泰顕

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