<6>全庁挙げ意識改革進む 旗振り役・足立区編 希望って何ですか

足立区の「子どもの貧困対策・若年者支援課」は貧困対策実施計画の旗振り役として機能する=5月20日、東京都足立区

 2015年に策定された東京都・足立区の子どもの貧困対策実施計画「未来へつなぐあだちプロジェクト」。計画を“絵に描いた餅”としないため、区は同年、計画の旗振り役となる専従の組織を立ち上げた。

 「子どもの貧困対策担当課」。計画の方向性を決定づけ、各事業の部門間調整を担う。

 現在は若年者支援にも視野を広げ「子どもの貧困対策・若年者支援課」と改称しているが、同課が計画策定当初から区全体の施策を立案する区長直轄の政策経営部内にあり続けている点に、全庁的な推進を目指す姿勢が見て取れる。

 「あらゆる事業が『貧困対策になりうる』という気づきを促すこともわれわれの役割」と語るのは同課の浜田康二郎(はまだたいじろう)課長だ。

 かつて、教育や福祉部門以外の職員からは「うちには関係ない」と貧困対策への消極的な声が聞こえることもあったという。

 区を挙げた「職員の意識改革」は必須だった。

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 区は新規採用者や主任昇任者、異動者に対して、子どもの貧困の現状や取り組みを学ぶ場を設けている。職員向けの啓発研修は23年度実績で7回。4年前からは、教職員向けの研修実施計画にも子どもの貧困対策に関する内容を盛り込んでいる。

 組織の壁を超え、区民の悩みごとをキャッチするための仕掛けも有効活用してきた。相談窓口で使用する「『つなぐ』シート」だ。

 シートには「収入・生活費」「子育て」など20近くの項目があり、相談者は悩みの該当箇所に「○」を付ける。それを基に職員が話を聞き、問題の全体像を把握。関連する部署と情報共有し、スムーズに相談者を支援につなげている。その受付件数は、23年度だけで900件を数える。

 親の経済状況や病など、子どもの貧困の背景には多くの困難が複雑に絡み合う。職員がシートを活用することで「課題に敏感になることや、横の連携を取るための体制づくりにも役立ってきた」と浜田課長は効果を指摘する。

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 現在では各部署が既存の事業を見直したり、新規事業を打ち出したりして、それぞれの事業を子どもの貧困対策実施計画にひも付けることが習慣化している。

 例えば区産業振興課は17年以降、地域の若手経営者らと連携し、ひとり親家庭の児童らを対象にした夏休みのものづくり体験事業を継続して実施している。

 同課内に「体験活動が子どもの自己肯定感を高めることにつながる」という共通理解があったことが、事業化につながった要因の一つ。同課の飯塚尚美(いいづかなおみ)課長は「子どものよりよい未来のためには、どの職場であっても取り組みを進めるべきだ、という認識がある」と強調する。

 子どもの貧困対策への意識は全庁に、着実に根を張っている。

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