NASA、ライブ配信に「ISSで緊急事態」報告音声。視聴者戦慄も誤りと判明

Image:NASA

6月12日(米国時間)に予定されていた船外活動の数時間前、NASAのライブ配信に突然、宇宙飛行士が減圧症を発症して重篤な状態にあることを知らせる音声が流れた。

音声の内容は、飛行士が低い気圧に暴露したことによる減圧症の症状が懸念されるため、速やかにスーツを着替えさせ、可能な限り酸素吸入をさせるよう指示するというものだった。

減圧症は「潜水病」とも呼ばれ、スキューバダイビングを終了して水上に上がった人にしばしば発生する症状だ。水中では身体に周囲から大きな圧力が加わる。このとき、水上(地上)にいるとき以上に呼気から身体の組織や血液・体液に窒素が溶解する。そしてダイビングを終えてダイバーが水上に上がったとき、身体への圧力が急激に下がることで、体内に溶け込んだ窒素が気泡化し、身体組織を圧迫したり、血液からの酸素の供給を妨げる原因になる。

症状が重篤であれば命の危険を伴うこともあり、発症者には高濃度の酸素を供給することが勧められ、状況によっては高気圧チャンバーのある病院への入院が必要になる。

宇宙飛行士の場合は、約1気圧の船内から外に出る前に、宇宙服内の圧力を0.3気圧ほどに減圧する。そして減圧操作前に、飛行士は減圧症を防止するため、宇宙服内の空気を100%酸素で見たし、十分に呼吸することで体内から窒素を排出させる「プレブリーズ」と呼ばれる手順をこなす。この準備作業が完全でなければ、減圧症を起こしてしまうということだ。

配信を見ていた視聴者が心配するなか、NASAは約1時間後になって、緊急事態を知らせる音声が誤りだったことを伝えた。NASAいわく、その音声は船外活動を前に地上の管制室が事前シミュレーションを行っていた際の音声チャンネルが、なぜか配信に乗ってしまったものだったという。NASAは「この音声は、クルーと地上チームが宇宙でのさまざまなシナリオを想定して訓練するために行うシミュレーションから誤って流れたもので、実際の緊急事態とは関係ありません」とし「ISSのクルーは、当時は睡眠中でした」と付け加え、ISSの飛行士が全員健康かつ安全であることを確認した。

なんともお騒がせな話ではあるが、その後、予定されていた船外活動は中止されることになった。その理由は減圧症ではなく、活動開始予定時刻の約1時間前に、着用した宇宙服について飛行士が何らかの不快な感覚を覚えたからだという。記事執筆時点では、ライブ配信の誤報と飛行士が感じた違和感に関連はなく、偶然が重なったものと考えられているが、まるで虫の知らせというか、なんとも奇妙な出来事と言うほかない。

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