チームの勝利に捧ぐ夏 藤嶺藤沢高校3年、武井海翔さん 藤沢市

「学生コーチをやります」。春季大会直後、監督にそう申し出た。

昨年末にじん帯を損傷した左ひじが回復せず、3年生では唯一選手生活に区切りをつけ、サポート役に回ることを決めた。ノックやスコア記入、データ分析など、雑務を買って出る。

「雑用だとは思っていない。誰かがやらなければいけないこと。チームスポーツなので」

悔いがなかったと言えば嘘になる。昨年より一回りたくましくなった身体は、最後の夏のためにこそ鍛え上げた賜物だ。

両親のことを思った。毎朝弁当を作ってくれた母、幼少からキャッチボールに付き合ってくれた父。二人とも応援してくれていた。ふがいなかった。選手としてメンバー入りする姿が見せたかった。「今まで野球をやらせてくれてありがとう」。両親に伝えると涙があふれて止まらなかった。父と母は、優しく背中を押してくれた。

学生コーチは、チームの勝利のためにできることを考えた帰結だ。だから、もう迷いはない。血豆が潰れるのも厭(いと)わずノックでバットを振る姿から覚悟がにじむ。

グラウンドのフェンスに掲げた横断幕には「甲子園」の3文字が踊る。チームは1985年以来、39年ぶりの甲子園出場を目指して大会前の総仕上げに取り組む。

「どんな相手と当たっても、絶対に勝つと信じている」。仲間に信頼を寄せ、最後の夏へ闘志をみなぎらせた。

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