【社説】最低の出生率 経済不安の払拭に全力を

少子化に歯止めがかからない。それどころか想定以上のスピードで進んでいる。

厚生労働省は2023年の人口動態統計を発表した。

女性1人が生涯に産む子どもの人数を示す合計特殊出生率は前年の1・26から1・20に下がり、過去最低を更新した。新型コロナウイルス禍の時期に婚姻数が減り、出生率は低下するとみられていたが予想以上の落ち込みだった。

出生数も前年より4万人以上減り、72万7277人で過去最少だった。政府推計と比べ11年も早く72万人台になった。少子化のペースはついに底割れしたとの見方もある。

婚姻数は戦後最少だった。日本は未婚の出産が少なく、結婚しない人の増加が少子化につながっている。

子どもを産まない選択をする理由は単純でない。産み育てたいのに、生活への不安からためらう人が少なくない。将来に希望が持てず、初めから諦める人もいる。

産み育てたいと願えば、地域を問わず、誰もが安心して実現できる環境を早急に整えなくてはならない。子どもは社会の宝である。親が苦悩を抱え込まず、社会全体で育む原点に返りたい。

少子化はさまざまな事情が絡んでいる。まずは少子化を加速させた主因とされる経済不安を払拭したい。

岸田文雄首相は「異次元」と称し、年3兆6千億円規模の少子化対策に乗り出す。今国会で関連法が成立した。

児童手当は所得制限を撤廃し、高校生年代まで延長する。低所得のひとり親世帯向けの児童扶養手当は、多子世帯に加算する。育児休業給付も拡充する。

こうした子育て世帯への経済支援は大切だ。それだけでなく、今後出産する人たちへの支援にもっと手厚い対策が必要ではないか。

若年層にとって生計の不安は切実だ。特に男性で非正規雇用の人は正規雇用より未婚率が高く、不安定な経済基盤が結婚を遠ざけている。政府は経済界と協力し、雇用の安定や所得向上に全力で取り組むべきだ。

長時間労働や単身赴任といった従来の働き方も早急に見直したい。日本は主要国の中で女性の家事や育児の時間が突出して長く、女性が出産をためらうのは当然だ。

今国会で改正育児・介護休業法が成立した。テレワークや時差出勤など柔軟な働き方や、男性の育休取得を企業に求めている。企業が育児と仕事の両立を推進しやすいように、政府は施策で後押しする必要がある。

出生率は地域差が大きい。九州各県は全国平均より高いが前年より低下した。若年女性が県外に多く転出し、出生率は比較的高くても出生数は減り続けている。

子育てを支える活動が盛んな地域は出生率が高い傾向にある。自治体は若い世代が仕事も子育てもしやすい地域づくりに力を入れたい。

© 株式会社西日本新聞社