どうする2025年問題「超高齢化社会」の課題…シニアの知恵で未来を切りひらく 長崎

高度成長期を支えた団塊の世代が75歳以上となり、日本は未曾有の高齢化時代を迎えます。医療・介護体制の維持、社会保障費の増加、働き手不足など、経済活動への影響は計り知れません。しかし、高齢者の知見を活かした活躍や企業の新たな採用活動が未来を切り開く鍵となるかもしれません。超高齢化社会を乗り越えるための具体策と希望を探ります。

【住吉光アナウンサー(以下:住)】「長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン」平家達史NBC論説委員(以下:平)とお伝えします。
【平】今回のテーマは 「2025年問題 超高齢化社会」です。
【住】前回のこのコーナーでは、DX化における「2025年の崖」を取り上げましたが、まだ「2025年」に何か問題があるのでしょうか?
【平】今回、取り上げるのは超高齢化社会の到来による様々な問題です。

2025年問題と超高齢化社会の現実

来年2025年は日本の高度成長を支えた「団塊の世代」全ての人が75歳以上の後期高齢者となり、これにより国民の2割近くが75歳以上の後期高齢者になります。
さらに、65歳以上は約3割になります。

これまでは、高齢化の「スピード」が問題になっていましたが、今後は、人口が減少していく中で、高齢化比率の「高さ」が問題になってきます。

【住】高齢化比率の高さがどのような問題を起こすのでしょうか?
【平】指摘されているのは、
▼ 医療・介護体制の維持の困難化 ▼ 社会保障費の負担の増加 ▼ 働き手の減少(人手不足) ▼ 後継者不足による休廃業の増加 などで、これによって経済活動が縮小する、つまり、このままでは《国力が低下する》ということです。

【住】どれを取っても、かなり深刻な問題ですね。
【平】高齢者が増え、労働者人口が減りますから、社会保障制度を支えている現役世代の負担が増えることにもなります。

因みに、65歳以上の人 1人に対する現役世代の人数は1950年は《12.1人》でしたが、2025年は《2.0人》になります。また、働き手も減少しますので、人手不足もさらに深刻化します。

人手不足については、DXや外国人の活用も大切な論点ですが、特に製造業や建設業のような技術を必要とする業界では深刻です。現在、若い世代が育たないままベテランの技術者が退職していくという状況が続いています。

採用活動を強化し10年ぶりに新卒採用に成功

島原市で農水産物の缶詰等を製造する「太洋食品」では、国内で穫れたみかんの缶詰やジュースを加工しています。

今は、ゼリーに使うびわの加工で忙しい時期です。種を取り出し、皮をむくなど、ほぼ全ての工程が手作業です。

太洋食品 山下英剛 事業推進部長:
「従業員さんでも高齢化が極端に進んでおりますので、繁忙期には人が全然足りない状況ですね」

パート・アルバイトの半数以上が60歳を超え、正社員も平均年齢は40代後半です。派遣会社から人を確保して何とか乗り切ってます。スタッフの高齢化を打破しようと、数年前から若い人材の採用活動に力を入れ始め、今年、10年ぶりに新卒の採用に至りました。決め手となったのは《工場見学》で、地元高校を卒業した2人が入社しました。

新入社員 三浦征幸さん:
「自分が普段食べているものをどのように加工しているのかを知り、ここで働いてみたいと思い入社を決めました」

太洋食品 山下英剛 事業推進部長:
「まずは会社がどういった仕事をしているのかっていうのを皆さんに見ていただいて知ってもらうことが就職に繋がるのかなという風に思っております」

「頼りにしてもらって職人冥利」シニア人材を再活用し技術の継承

長崎県諫早市小長井町の「中尾建設」はコンクリ-トを流し込むための型枠工事などを行っています。

型枠を組み立て、鉄筋コンクリートや鉄骨構造の基礎をつくる《型枠大工》が特に不足していると言います。

中尾建設 中尾大樹 社長:
「高齢の方しか今はいない… どうやって技術を継承していったらいいものか、ずっと悩んではいますね。リクルート活動に今一番力を入れてまして、隣の佐賀県の高校とかにも学校訪問しています」

今、人材が不足している所を補っているのが、第一線を退いた、いわゆる"シニア人材"です。

吉次富義さんは、数年前まで建設現場に出ていたベテラン職人です。現在はアルバイトとして年齢的に負荷の少ない作業を担っています。

この会社では外国人の技能実習生を受け入れていて、その指導にもシニア人材が一役買っています。長年培った技術をイチから伝えます。

引退した職人 吉次富義さん:
「呼ばれんより やっぱそいだけ元の会社から頼りにしてもろうとっとなら、そん時はやっぱりね(職人)冥利(に尽きる)」

【住】“シニア人材”が各企業を救う存在になるかもしれませんね。
【平】インタビューの中にもありましたが、高齢者側からしても頼りにされるというのは生き甲斐を感じることができるでしょうから重要なポイントだと思います。企業としては、"長く働ける職場作り"という面で、労働環境の整備や多様な働き方の推進が求められます。

シニア人材をマッチング

仕事を企業や家庭などから引き受け会員に就業機会を提供している「シルバー人材センター」です。

長崎シルバー人材センター 北嶋寛 事務局長:
「今まで仕事をしてきてそういうキャリアを生かす部分もありますし
新たに仕事ができる部分もありますので」

企業の業務内容を見直せば、シニア人材を活用できる分野が見つかるといいます。

北嶋寛 事務局長:
「フルタイムの仕事ではなくて、シルバーにお願いできるような仕事を切り分けていただいてシルバー人材センターに仕事を発注していただければ、マッチングという作業を今後協議して進めていきたいと」

過疎地域で75歳以上のおばあちゃんたちが働ける会社として注目

高齢者の活躍について、実績をあげているユニークな取り組みがあります。
「うきはの宝」は、福岡県の過疎地域から生まれた『75歳以上のおばあちゃんたちが働ける会社』です。

「田舎のばあちゃんが日本を救う!」がコンセプトで、おばあちゃんたちの昔ながらの味をサービス化して販売するなどしています。

うきはの宝 大熊充 社長:
「やっぱり働く 適度にですね 適度に働くっていうことはやっぱり精神衛生上 あと身体にとっても 良いと思ってます。我々は 単純にばあちゃんたちを労働力っていう言い方はしてなくて我々には持ってない知恵・知財ですね 持ってらっしゃるので
そこをうまく活用しそこをビジネスにしていってる形ですね」

働いている女性たち:
「干し芋を作ってまーす」
「楽しく働いております」
「皆さんといろいろお話もできるし 生きがいを感じてます」

高齢者がイキイキと働き、収入も得るという社会が見えてきます。

大熊充 社長:
「環境と仕組みを整えていけば 十二分に活躍していける。もう確信しか持ってないです」

【住】シニア人材が生きがいを感じながら働ける世の中というのは、これから日本社会が目指すモデルのような気もしますね。

【平】うきはの宝の取り組みは全国的にも注目されています。高齢者がお持ちの知見や経験は代えがたいものですし、高齢者が元気になることで医療費の増大も抑えられるかもしれません。

【住】最初の指摘の中に「後継者不足による休廃業の増加」というのがありましたが、その点は如何でしょうか。

中小企業の約6割の経営者が70歳以上 後継者不足が深刻に

【平】日本の企業の約99%は中小企業で、雇用の7割を占めています。
2025年には、中小企業経営者の6割以上が《70歳以上》になると見込まれています。中小企業庁によると2023年時点での後継者不在率は54.5%です。
経営者の高齢化と後継者不足によって、事業継承が難しくなり廃業せざるを得ない企業が増えることが考えられます。
日本の経済を支えている中小企業が後継者難で廃業せざるを得ないというのは経済的に大問題です。

【住】対応策はあるのでしょうか。
【平】事業承継については、さまざまな公的支援が整備されています。また、後継者については、各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターを活用することも一つの方法です。長崎県では、長崎商工会議所に設置されています。

仕事をしながら家族を介護「ビジネスケアラー」への対策

仕事をしながら家族を介護する「ビジネスケアラー」への対策も重要です。

経済産業省によりますと、2020年時点で、家族介護者の約4割が仕事と介護を両立しています。そして、2030年にはビジネスケアラーの増加による経済損失額は介護による生産性の損失などにより9兆円を超えると推計されています。

総務省の人口推計(2022年)によると、長崎県の老年人口割合は33.9%と全国12番目の高さですから、ビジネスケアラーへの対策はUターン者を増やすためにも重要な論点だと思います。

いずれにしても、「2025年」はまだ高齢者人口増加の過渡期であり、ピークを迎えるのはさらに先です。「2030年」、「2040年」と問題はより一層深刻さを増していくと考えられます。
DX化の進展、外国人材の活用、事業承継の支援やビジネスケアラーへの対応に加え、高齢者が生き甲斐をもって活躍できる場を増やすことで、少しでも「2025年問題」が緩和されることに期待したいと思います。

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