【社説】国立大の授業料 値上げで進学機会奪うな

厳しい財務状況などを理由に、東大が授業料引き上げの検討に入った。経営が厳しい他の国立大が後に続く可能性もある。

地方の国立大の授業料が上がれば影響は大きい。家計負担を考え、自宅から通える国立大を目指す若者の一部が進学を諦めかねないからだ。

人材は私たちの国、地域の財産だ。大学教育を受ける機会を若者が失えば、本人はもとより社会にとっても損失となる。国立大の授業料値上げは慎重に検討すべきだ。

東大など国立大授業料の多くは文部科学省令が標準額と定める年53万5800円で、20年近く据え置かれている。大学の判断で最大2割まで増額でき、一橋大や千葉大などは上限に引き上げた。

いま授業料値上げを探るのは、さまざまな物価が上がる中なら理解を得やすいとの思惑があるのだろう。

伊藤公平慶応大塾長が中教審の特別部会で「国立大の学費を150万円程度に」と提言したことも議論を呼んだ。

私立大の2023年度の平均授業料は約96万円だった。大学教育の質を高めるには、公平な競争環境を整え、国立大と私立大との学費格差を小さくする必要があるという主張だ。

大学授業料の家計負担は重くなる一方だ。1989年以降、1世帯当たりの平均所得はほぼ横ばいなのに、授業料は国立大が1・6倍、私立大は1・7倍になった。消費者物価は1・2倍程度だ。

世帯収入に応じた学費免除や給付型奨学金などの制度があるとはいえ、安易な値上げは認められない。

国立大の経営難は確かに深刻だ。全国86の国立大などでつくる国立大学協会は今月7日の声明で「もう限界です」と国民に窮状を訴えた。

主な収入源である国からの運営費交付金は、2004年の国立大学法人化から減り続けている。24年度は1兆784億円で、20年間で約1600億円減少した。

物価高騰のあおりを受け、老朽設備の更新が滞り、研究費不足も深刻だ。財政難が恒常化するようでは優秀な人材を確保するのが困難になり、教育や研究の質が低下してしまう。こうした懸念は年々強まっている。

国は研究に伴う企業からの収益や寄付金を増やし、収入源を多様化するよう促すが、文系や大企業が少ない地方では簡単でない。

全都道府県にある国立大は人材育成や産学連携の拠点である。その機能低下を見過ごすわけにはいかない。

日本の高等教育機関への公財政支出は国内総生産(GDP)の0・5%で、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の半分にとどまる。国は予算を増やすべきだ。

大学への財政支出を増やして家計の負担を軽減することは、少子化対策になる。私立大への補助金を増やせば、授業料格差も縮小するはずだ。

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