車名はなんと「フェラーリ12気筒」! この最新スーパーカー、いったいなんなの?(小沢コージ)

顔つきは365GTB/4デイトナに似ている(写真)小沢コージ

【小沢コージ クルマは乗らなきゃ語れない】

フェラーリ 12Cilindri
(車両価格:¥56,740,000/税込み~)

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ある意味イキ過ぎなほどシンプルで、意義深く、なおかつ強気なスーパースポーツが登場した。その名もフェラーリ12Cilindri。数字からイタリア語読みすると「ドーディチ チリンドリ」。頭から直訳すると「フェラーリ12気筒(シリンダー)」になる。

強引にこのネーミングを日本車に当てはめると「トヨタ6気筒」とか「ホンダ4気筒」「スズキ3気筒」になり、正直ワケがわからない。クルマ好きしかわからない隠語のような車名と言ってもいい。

だが違うのだ。英語で気筒を表すシリンダーをイタリア語にすると「チリンドリ」と印象的な発音になることもあるが、何よりフェラーリにとって「12気筒エンジン」は特別な存在だからだ。

エンジン音は最新F1をも上回るかも?

そもそも大衆車に端を発する凡百メーカーと違い、最初からレーシングマシンとそのF1マシンにガワを被せたような少量生産スポーツカーを作ることから始まったのがフェラーリ。細かい逸話はさておき、最初に作った自前のエンジンはV型12気筒だった。

これは設計や製造、調整こそ難しいが、かみ合えば爆発的なパワーと高回転、美しい音色が得られる回る芸術品。ボディの美しさで知られるフェラーリではあるが、代名詞は実は「12気筒エンジン」。その伝説が今も息づいているというわけだ。

事実、今回日本初披露された12チリンドリは6.5ℓの大排気量自然吸気V型12気筒を搭載し、最高出力830psの爆発的パワーと678Nmの巨大トルクを発揮する。マシンの時速0-100km加速はわずか2.9秒で。最高速は時速340km。とんでもない高性能であるだけでなく、エンジン音や存在感もとんでもないものになるはずだ。

なぜなら、このF140型というV12気筒エンジンは、かつての伝説的スーパースポーツ、エンツォフェラーリに搭載されていたユニットが原点。驚くべきは最高回転数でなんと9500回転。今やF1マシンですらエコ化で1.6ℓV6ハイブリッドターボになっている時代。もしや甲高い官能的なマルチシリンダーの高周波エンジン音という意味では、12チリンドリは最新F1をも上回るかもしれない。

最新の欧州排ガス規制「EU6e」をクリア済み

さらに12チリンドリが面白いのは、クラシカルな2人乗りのボディで、60~70年代の名作FRフェラーリ、365GTB/4デイトナに顔つきが似ている。伝説的な12気筒エンジンと伝説的なFRフォルムを纏った12チリンドリ(12気筒)。もしや今の電動化で、12気筒フェラーリも最後が見えてきており、それを惜しむオマージュであり、メッセージということなのだろうか?

そう思い、旧知のスーパーカージャーナリストに聞くとこう返ってきた。実は今回搭載されている改良型F140型エンジンは最新の欧州排ガス規制「EU6e」をクリア済み。それどころか、今後さらに厳しくなる規制も突破できる見込みだとか。

つまり、この新改良V12気筒には未来が残されているわけであり、「逆にフェラーリは今後も12気筒フェラーリを作り続けるというメッセージかもしれませんよ」と。

昨今の電動化で、あのホンダまでエンジンから撤退するとか、逆にトヨタはカーボンニュートラル燃料の開発推進で、エンジンをなるべく絶やさない方向でいるとか、喧々諤々な内燃機関存続論。

フェラーリはフェラーリで己の「アートとしてのエンジン」を残したいはずであり、このクルマはもちろん、車名も含めて世界と戦っているのかもしれない。果たして5年後10年後、12気筒エンジンフェラーリは一体どうなっているのだろうか?

(小沢コージ/自動車ジャーナリスト)

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