戦争の「語り部」組織化へ 佐賀県遺族会、記憶継承に危機感 体験談掘り起こし、次世代育成に力

語り部の組織化に取り組む佐賀県遺族会の山口貢会長(左)、西田富子女性部長=佐賀市の県遺族会

 佐賀県遺族会は、戦争の記憶を次世代に伝える語り部活動を強化する。来年には戦後80年を迎えて戦争の体験者が少なくなる中、語り部のネットワークをつくり、学校の平和教育などに活用してもらう。新たな体験談の掘り起こしや次世代の育成に取り組み、記憶の継承が長く続く仕組みを構築する。

 日本遺族会の方針を受けた全国的な取り組みで、本年度、厚生労働省の補助事業に採択された。背景には、戦争と戦後の困窮を体験した戦没者遺児の平均年齢が83歳となり、戦争の記憶が風化していくことへの危機感がある。

 県遺族会は昨年から語り部活動の現状把握に乗り出し、地区組織の協力を得て経験者の情報を集めた。現在22人と1団体をリストアップし、語り部ができる人がいないか掘り起こしを進めている。

 これまで個々で活動してきた語り部を組織化して仲介役を担うことで、活動が手薄だった地域にも派遣していく。県内の児童生徒が戦争体験の話を聞く機会は、修学旅行先の長崎や広島を除くと、年々減る傾向にある。学校が独自に地元の語り部を探すのは難しくなっていた。

 県遺族会会長の山口貢さん(85)=佐賀市=は「体験者の話を聞いて自分が暮らす地域と戦争のつながりを知れば、平和への思いは強まる。その機会をできるだけ多くの子どもに提供したい」と力を込める。

 7月上旬には語り部を対象にした研修会を予定しており、人権や国際関係に配慮した言葉の使い方や分かりやすい表現の仕方を伝える。遺族の孫世代から先の活動も見据え、新たな語り部の育成や体験談の映像による保存に取り組む。

 山口さんは「最近は語り部の派遣依頼を受けることも少なくなり、心配とともに焦りを感じている。戦没者の顕彰と遺族の処遇改善が遺族会の活動の柱だったが、残された時間は記憶の継承に力を注ぎたい」と、活動への協力を呼びかける。県遺族会、電話0952(23)4490。(青木宏文)

© 株式会社佐賀新聞社