なでしこJに不可欠な守護神・山下杏也加。日本のゴールマウスに立ち続けている要因は?【パリ五輪の選ばれし18人】

パリ五輪に挑むなでしこジャパンのメンバーがついに発表された。ここでは12年ぶりのメダル獲得を目ざす日本女子代表の選ばれし18人を紹介。今回はGK山下杏也加だ。

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なでしこジャパンの守護神・山下杏也加は、試合後のミックスゾーンに大抵は最初に姿を現す。試合が終わるとチームメイトとひと通り勝利を喜び合うが、長くピッチ上で話し続けることは少ない。そのうえ、ロッカールームでの支度も早いのだろう。結果、山下はミックスゾーンで待つ記者たちに最初に捕まることが多い。

数十分前まで出場していた試合で、抜群の反射神経と俊敏なシュートストップでどれだけ活躍しても、ミックスゾーンの山下は自分をベタ褒めしない。試合が終わると同時に、次の試合を考えている。そのストイックな姿勢こそが、なでしこジャパンのゴールマウスに長く立ち続けている要因なのかもしれない。

村田女子高時代の途中までFWをしていた山下は、GKに転向するとそこから全国レベルでの頭角を現していった。なでしこジャパンの選手は、ほとんどがU-17やU-20日本女子代表に招集され、国際舞台を多く経験していく。しかし、GKを始めるのが遅かった山下は、2013年にU-19日本女子代表の遠征に参加したものの、いわゆる育成年代の代表チームで目立った活躍を残していない。

それでも2014年、日テレ・ベレーザ(現、日テレ・東京ヴェルディベレーザ)に加入すると、同年の皇后杯から定位置を掴み、翌年の2015年シーズンからなでしこリーグ5連覇に貢献。名門で不動の地位を築いていくと、当然のようになでしこジャパンのゴールマウスも任されるようになった。

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2021-22シーズンのWEリーグ開幕前には、INAC神戸レオネッサへ移籍し、チームを初年度のWEリーグチャンピオンに導く。開幕から8試合連続無失点という驚異的な記録を残す原動力となり、自身もWEリーグ初年度の年間最優秀選手賞(MVP)を受賞した。

GK登録の選手がなでしこリーグ時代を含む全国リーグでMVPを獲得したのは、30年以上の歴史の中で初の快挙だった。

山下は「ゴールキーパーがMVPを取れると思っていなかったのですごく嬉しい」と笑顔を見せ「(サッカー)スクールの手伝いをする時も、ゴールキーパーをやりたい子はなかなかいないから、ゴールキーパーも評価されると証明された。これからはゴールキーパーにも注目してほしい」と、GKの地位向上につながることを喜んだ。

そして、I神戸は今シーズンまで3年連続でWEリーグ最少失点を記録しており、その中心には常に山下がいた。

今年2月に行なわれた、パリ五輪出場を懸けた北朝鮮女子代表とのアジア最終予選第2戦では、山下がビッグセーブでなでしこジャパンを救う印象的なシーンがあった。

1-0のリードで迎えた44分、北朝鮮FWがトリッキーなシュートを放つ。ボールが日本ゴールの隅へと転がると、なでしこのDF選手たちはボールの行方を見送るしかない状態となったが、山下だけは即座に体重移動をしながら踏ん張り直して右手を伸ばす。ゴールライン上でボールをかき出した山下は「3分の2はボールの内側に(ゴールラインが)入っていたので問題なかった」と、鮮明にその瞬間を振り返り、2-1のなでしこジャパン勝利、そしてパリ五輪出場を手繰り寄せた。

育成年代での国際経験の少なさを補うように、実直に探究を重ねてきた成果が今の山下を形成している。なでしこジャパンが世界の舞台で輝くためには、そんな山下の存在が不可欠だ。

取材・文●馬見新拓郎(フリーライター)

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