『Empire of the Undergrowth』敵陣の奥地へ潜入せよ!好蟻牲生物たちの巣ニーキングミッション【ゲームで世界を観る#80】

『Empire of the Undergrowth』敵陣の奥地へ潜入せよ!好犠牲生物たちの巣ニーキングミッション【ゲームで世界を観る#80】

本記事では虫の映像を紹介しています。

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苦手な方は優雅な女王蟻様に免じてお引き取りください。

蟻の巣を題材にした『Empire of the Undergrowth(エンパイア・オブ・ジ・アンダーグロウス)』には、蟻以外にも様々な生物が登場します。最初の天敵アクマサビイロハネカクシ(オレンスオオクロハネカクシ)や、ちょうど良いスナックのゾウムシ、鎧が硬いワラジムシなど、地下の世界は多種族がひしめき合う空間です。ゲーム中では全部蟻の食料にしてしまうのですが、蟻をうまく誤魔化すことさえできれば巣の中は生存にとても有利な場所になるのです。蟻と関わりを持つ、共生する虫たちは「好蟻牲生物」というカテゴリにまとめられ、蟻の群れの巨大なシステムがどのように利用されているのか、未開拓の部分が多い研究として注目を集めています。

蟻は基本的に異なる種を認識したらすぐさま排除か狩りにかかる好戦的な習性を持っていますが、光の無い地下で敵味方を区別する手段は「嗅覚」と「聴覚」、つまり匂いと音です。生物の進化は実に巧妙で、蟻の持つフェロモンと音の会話を偽装してしまえば気づかれずに居座り続けることが可能になってしまうのです。

好蟻牲で最も幅広いのがハネカクシ科で、蟻を利用する方法も多様です。ツノヒゲツヤムネハネカクシ、オオズハイイロハネカクシは巣穴の入り口付近で待ち伏せ、時々蟻を襲いはするものの、蟻よりも他の種のハネカクシを狙います。

アリノスハネカクシの仲間は、餌に似た匂いを出して蟻をおびき寄せると、自ら巣の中に運び込まれるように丸くなります。蟻は餌を持ち帰るつもりで運びますが、その間にアリノスハネカクシは蟻の匂いを自分にこすりつけるのです。そうしてカモフラージュすれば、匂いの効果が続く限り敵だと見破られることはありません。そうしてコロニーの「仲間」から食料を分けてもらいます。変装のスニーキングミッションのような手口が自然界にも存在しているとは驚きです。

双方に利のある関係はアブラムシが有名です。アブラムシは蟻に蜜を当たる代わりに、護衛として身を守ってもらう共生関係にあります。カイガラムシの一種であるアリノタカラも同じように蜜を出すのですが、自力ではほとんど動けず、寄生先のミツバアリに運んでもらわないといけません。女王蟻が巣立ちの時を迎えると、アリノタカラを一つ抱えて新しい場所まで大事に持って行きます。アリノタカラは単性で繁殖できるので、ミツバアリの巣の中でだけ、持って行った1体からまた数を増やしていくのです。

シジミチョウは地上の草に卵を産み、孵った幼虫はしばらく手近な草を食べて過ごします。幼虫が成長しきった頃になると、蟻に似たフェロモンを出して巣の中まで運び込んでもらいます。そうすると草の葉を食べていたシジミチョウは蟻の幼虫を食べるようになるのです。シジミチョウの幼虫も蟻に蜜を与えるのですが、それを舐めた蟻はより攻撃的になり、かつ幼虫のそばに留まるようになります。共生関係は一見平和的にも思えますが、実はこのように蟻が都合よく使われているだけなのかもしれません。

中には気配を消し去り、蟻に認知されないままおこぼれに与る種もいます。トゲトゲハネカクシはトビイロシワアリの巣に潜り込みますが、匂いを一切出さないために蟻は全く反応しません。こうしたステルス潜入虫は結構多く、蟻の巣の中には居候が想像よりも多く居着いていることが分かってきました。

蟻のコロニーそのものにおいても、複数の女王蟻のコロニーが連結して巣のネットワークを作る「スーパーコロニー」の存在が明らかになっています。通常、コロニーは新しい女王蟻が生まれたら必ず新たに作り直す必要があり、同じ種どうしてあっても別のコロニーは餌を奪い合う敵になります。フェロモンの種類もコロニーごとに違うので、本来であればそれらが接続することはありません。しかし、ある特定の種になるとコロニーごとのフェロモンの違いが薄く、敵では無く同胞として認識します。北海道の石狩海岸にあるエゾアカヤマアリのスーパーコロニーは、発見されたときには約10キロにも及ぶ広範囲のネットワークを形成していました(現在は道路の建設などのため縮小)。

このスーパーコロニーで今勢い付いているのが、世界中で猛威を振るっているアルゼンチンアリです。強力な繁殖力が特徴の一つに挙げられますが、その理由はコロニー同士の対立が少なく一つの大きな群れとして行動できるからです。そのため、進出した現地の蟻を駆逐する事態が発生しています。

世界は今、同じくスーパーコロニーを形成するヒアリとアルゼンチンアリの全面戦争のただ中にあります。それぞれが世界規模の群れネットワーク「メガコロニー」を形成し、進出した先の縄張りを奪い合っています。一方で、日本のオオハリアリがアメリカに進出している報告も。それは同時に、現地の蟻を生活を共にする多くの好蟻牲生物の暮らしが壊されることを意味します。蟻も蟻で、人間の交通網を利用する「好ヒト性生物」と言えるかもしれません。人新世によって大きく変化していく生物のあり方はどこへ向かっていくのか、蟻の進撃から目が離せません。

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