安倍元総理を演じる5日前に“あの事件”が…ザ・ニュースペーパー福本ヒデさんが振り返る【その日その瞬間】

ザ・ニュースペーパーの福本ヒデさん(C)日刊ゲンダイ

福本ヒデさん(コント集団「ザ・ニュースペーパー」メンバー/52歳)

【その日その瞬間】

社会風刺コント集団として知られる「ザ・ニュースペーパー」。中心メンバーの福本ヒデさんは政治家の安倍晋三、麻生太郎、石破茂らを演じて大人気だ。記憶も鮮明な「その瞬間」は、あの事件だという。

ザ・ニュースペーパーに入ったのは1997年。それから27年になります。忘れられない“その瞬間”は、2022年7月8日。安倍晋三元総理が亡くなられた日のことです。

ニュースペーパーに入って06年に初めて当時総理大臣だった安倍さんの役をやりました。ところが、体調不良で急に入院してしまい、僕のところまでワイドショーがインタビューに来るようになり、公演で安倍さんのコントをやる機会もどんどん増えていって、「徹子の部屋」にまで呼ばれました。

その後、福田(康夫)さん、麻生(太郎)さんと総理が交代し、短命内閣になりますが、12年12月に安倍さんが返り咲きます。それからは8年の長期政権になり、ニュースペーパーだけでなく、僕個人でも「安倍さんが見たい」ということでお仕事をいただきました。

20年に総理を辞め、安倍派の会長になってキングメーカーになるかという中で、まさかの“あの日”です。ニュースペーパーの博品館のステージはその5日後。リハーサルが13時からというタイミングでした。家でニュースを見ていたら速報が流れてビックリ。奈良で参院選の応援演説の会場で撃たれて、ドクターヘリで運ばれ、状況がはっきりしないまま。その日は流れてくる情報にクギ付け。もちろんリハーサルになりませんでした。

増上寺でのお葬式、翌日の舞台ネタを念仏のように繰り返し唱えた

そこから13日の本番までにネタをどうするか悩みました。2時間のステージで安倍さんが出て何を話すか。考えても答えが出ない。メンバーもみんな無言です。お客さんは笑いに来てくださるので、僕が泣いたりしたらステージが台無しになってしまう。

でも、いま一番のニュースにまったく触れないのはおかしい。やるからには、やっぱり笑いにしなきゃいけない。悲しんで終わりにだけはしたくないと思いました。

そして考えに考え抜いたネタを、増上寺でのお葬式の間、念仏のように繰り返し唱えまして、安倍さんの亡きがらの前で「これを明日やらせてもらいます」と祈るように伝えました。そして翌日の本番。安倍元総理登場のテーマ曲「アベ・マリア」が流れ、涙を流すお客さんもいる中、ステージに上がりました。

「(安倍晋三のマネで)先日の参議院選挙でわかった一番大事なことは人の命を奪ってはいけないということです」と切り出したら深刻なムードになって。

続けて「今日お越しのみなさんは全員が素晴らしい。なぜなら生きているからです。生きているから博品館のエレベーターが狭いとか待ち時間が長いとか、こんなに冷房が効いてるなら上着持ってくればよかったとか感じることができて笑えるんです」と亡くなった方じゃないと言えないことを言ったら、悲しみからだんだん笑いに変わり、泣き笑いのステージになりました。

そして「いずれ向こうで会いましょう。その時は憲法改正、北方領土の問題や拉致問題がどうなったか、一番気になっているアベノマスクがどうなったのかも聞かせてください」。続けて、会場の様子を見ながら、「いずれ向こうでお会いしましょう……それが近い方もいらっしゃる感じがしますけど」と(笑)。

風刺コントをやっている集団としてはそれが精いっぱいでしたね。

■誕生日パーティーの余興でガチでネタをやったら支持者から大ブーイング

安倍さんとは何度も会う機会がありました。初めて会ったのは安倍さんが総理を辞めて1年経った時。昭恵夫人がニュースペーパーの公演にいらして誕生日パーティーの余興を頼まれたんです。当時、僕は忖度を知らなかったんで(笑)、ガチでネタをやったら、みなさん安倍さんの支持者ですから、ものすごいブーイングでした(笑)。

「桜を見る会」には2回呼ばれました。首相公邸でのクリスマス会の余興にも2回。1回だけ「どうも安倍晋三です。本当に楽しかったです。また何かありましたらよろしくお願いします」というお礼の電話もありました(笑)。昭恵夫人いわく安倍さんはいろんな方にしょっちゅう電話していたそうです。

安倍さんの役は今も時々やっています。「天国からやってきました」って。安倍さんの立場で岸田さんにアドバイスもできますしね。

「裏金問題を安倍派のせいにして。私はやめろって言ったのに本当に迷惑してます。でも、私のせいにしたくなるのはわかります。私は森友、加計学園、桜を見る会と、うやむやの三冠王だったんで。私のせいにすれば、みんなうやむやにできるって思ってるんです」

なんて安倍さんに代弁してもらう形で。

これからも安倍さんをやっていこうと思っています。ただし、場所をわきまえて。これぐらいやっても大丈夫かな、今日はこれぐらいにしておこうとか。お客さんの反応を見ながらですけど。

(取材・文=浦上優)

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