「いい人」の快挙

 善良な人、好感が持てる人を「いい人」と言うが、一般的に勝敗重視のスポーツには不向きだとされている。理由は大事な場面で優しさや甘さが出てしまうから。そう評する指導者は少なくない▲その「いい人」が今季、絶好調だ。プロ野球広島の大瀬良大地投手(33)=大村市出身=が7日、史上90人目となるノーヒットノーランを達成した▲彼の人柄を示すエピソードは数多い。ある試合で剛球投手から死球を受けたときのこと。彼は痛みに耐え、笑って「大丈夫」と“神対応”した。コメントは「真っ先に相手を気遣ってしまった」だった▲これには称賛と同時に非難もあった。死球は一つ間違えば選手生命に関わる。そこで見せた笑顔。監督室に呼ばれて「いい人だけじゃ勝てない。いい人はユニホームを脱いだところでやってくれ」と叱られたという後日談もある▲ダウン症の弟、元気さんとの話も心温まる。多感な小学時代、母が「元気を試合の応援に連れて行くのは嫌じゃない?」と尋ねたところ、返ってきた言葉は「何で、だっておれの弟じゃん」。当たり前を言える心の強い息子に、両親はどれだけ救われただろう▲16日現在の防御率は驚異の0.96。当然、両リーグ通じて1位だ。気は早いが、タイトルを手にした「いい人」の笑顔を楽しみにしている。(城)

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