1人1泊3万3000円の高価格帯でも高い客室稼働率を誇る山あいの人気旅館 従業員確保にも成功しているその取り組みとは

人手不足の中、岩手県西和賀町にある温泉旅館が、事業を成長させながら働き手の確保にも成果を上げています。その取り組みの裏にあった意外なものとは―

岩手県西和賀町湯川の小鬼ヶ瀬川沿いにひっそりとたたずむ温泉旅館「山人(やまど)」。
旬の地元食材にこだわった創作料理と大自然に囲まれた温泉宿ならでのは癒やし。
半露天風呂が完備された客室は、1室2人の利用で1人3万3000円からという高価格帯ながらも高い客室稼働率を誇る人気の宿です。

現場を指揮する佐々木燿総支配人は34歳。進学と就職で一度西和賀町を出ましたが、Uターンしてアルバイトで山人に入り、11年になります。

(佐々木燿 総支配人)
「西和賀の衰退っていうのも年々進んでいく中で、産業としては美食と観光しかという言い方もなんですが、美食と観光が外からの収益を集客をできる要素だと思っていたので」

高齢化率50%を超える過疎地で外貨を得られる観光産業。力を入れているターゲットにインバウンドがあります。そのインバウンド対応の要となるのが西尾颯記支配人です。
中国への留学経験があり、2017年ごろから増えている中国や台湾などインバウンド客の対応を担っています。

インバウンドのほかにも、意外なものが山あいにある人気の温泉旅館の躍進を支えていました。それがDX=デジタルトランスフォーメーションです。

(佐々木総支配人)
「レブパーっていうのがあるんですね。“レベニューパーアベイラブルルームズ”っていうんですけど」

レブパーとは客室稼働率と客室平均単価をかけて求められる数値で、最近のホテル経営で重視されている指標です。
佐々木総支配人は、経営に関わる数値以外にも予約管理や部屋割り、顧客情報や従業員管理など、あらゆる情報を一元で管理する自社オリジナルのシステムを開発し、業務効率化に取り組んでいます。

(佐々木総支配人)
「旅館業っていうのは他の業態もそうだと思いますが、準備のための時間っていうのはすごく多いと思うんですよ。それを可能な限り少なく効率化した上で、余剰時間をお客様のために最大化して使えるように」

社員の橋本翔也さんは趣味で西和賀町の自然の写真を撮っています。

DXによって生み出された休暇を活用して西和賀の自然に触れ、その知識は宿泊客との対話にも生かされています。DXが山あいにある人気旅館の業務効率化と経営の安定、そして質の高いサービスを可能にしています。

(橋本翔也さん)
「今日からウグイス泣きましたよっていう話をしたり、ウグイスって鳴き始めはホーホケキョとは泣かないので、ホッケキョとか下手に鳴くんですけども」

そして、この温泉旅館は今年、新たな挑戦に乗り出しました。

山人は2022年、町が所有していた日帰り温泉施設「ふれあいゆう星館」を買い取り、整備を進めてきました。そして6月9日、その施設で初めての公開イベント、「山人万博」を開催しました。

招いたのは地域住民や食材などを供給している地元業者です。
オープンキッチンを使って料理を提供したり、社員の橋本さんが撮影した西和賀の自然写真の展示コーナーを設けたり。そこには日ごろ、国内外の宿泊客に発信している西和賀の魅力を地域の人たちと再確認したいという思いがありました。

(橋本さん)
「こんなにきれいな景色がこんな田舎にあるのかとお客様が仰って、最後に橋本さんの愛を感じたという話が多くて。それが自分の中で嬉しかったです」

山人は今、秋田県男鹿市に新しい旅館を建設していて、2025年から稼働させる計画です。佐々木さんは地元の人たちの協力を得て、地域外の人に魅力を発信する山人のスタイルを男鹿市の旅館でも定着させたいと考えています。

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