【いわきの公共施設】対話踏まえ存廃判断を(6月18日)

 いわき市は現在の市有施設が約35年後、最大で半減する可能性を示す「個別施設計画」を策定した。人口減や税収減、老朽化が要因としているが、市民生活への影響を極力抑えるよう、庁内の議論を尽くすべきだ。住民の意向を酌み取りながら行政サービスの維持・向上に向けた対応策を提示する必要もある。

 市内の公共施設数は県内最多の1281に上り、約4割は築40年以上の旧耐震基準で建設されている。市医療センターと市水道局所管を除く約千施設の方向性を築年数や利用状況などに基づき「廃止」「在り方見直し」「民間譲渡」「長寿命化」「現状維持」などに分類した。廃止や在り方見直しなどとされた全てを仮になくした場合、ほぼ半分の673となる。

 市の人口は減少傾向にあり、それに伴い税収の目減りが見込まれる。老朽化により安全性への懸念もあるなら、施設の存廃を検討するのはやむを得ないだろう。ただ、住民生活が著しく不便になる事態は避けなければならない。

 市は市民との対話を通し、今後の在り方を固めていくとしている。住民票や印鑑証明など各種証明書を交付する専用車両による「お出かけ市役所」の機能を拡充したり、事務手続きを電子化したりする施策も推し進めてほしい。市民サービス維持・向上につながる市独自の取り組みを打ち出せば、同様の課題を抱える自治体のモデルにもなる。

 全施設の維持管理費は今後30年間で約6千億円との試算もあり、年平均で約150億円の財源不足が見込まれる。東日本大震災をはじめ、2019(令和元)年の台風19号、昨年の台風13号からの復興や住民生活の利便性向上に向けた財政需要に対応できなくなる恐れもある。在り方見直しや複合化の方針が示された施設もスピード感を持って方向性を決め、維持管理費の圧縮に努めるよう求めたい。

 学校や幼稚園、公民館、集会所などは地域の核となる施設で、廃止となれば活力が失われかねない。行政経営の効率化ありきで中山間地の衰退を加速させては元も子もない。伝統芸能や神社の祭礼、運動会など地域のコミュニティーを維持するための振興策にも知恵を絞り、持続可能な地域づくりに力を注いでもらいたい。(円谷真路)

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