“世界一の名将”グアルディオラ、他の指揮官とは一線を画す「フィーリング」【コラム】

「(自分の采配について)知識や経験に基づいてはいるものだが、立て続けに決断を下す中で、直感が導いてくれるんだ」

今や世界一の名将と言えるジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)の表現はどれも興味深いが、これは本質を突いている。補足した説明も加えておこう。

「監督は選手の良さを引き出し、みんなで何かを成し遂げるのが仕事と言えるだろう。私も、そこに喜びを見いだす。選手たちやスタッフがどんどん良くなっていくような、居心地の良い環境を作り出したい。もちろん、切り盛りのところで間違いが生じることはあるかもしれない。そのとき、監督は言い訳を言い募るのは厳禁である。たとえば、もしお金があったら、とか、もし、あそこでゴールをしていればな、とか…。そうした、たら・れば、に意味はない。(監督は)たしかなアイデアを持って、それを信じて仕事をし続ける。そうすれば、直感が働くようになって、自分を行くべき場所へ導いてくれるんだ」

直感は、なんとなく下す決定ではない。それは、人生を懸けた経験を重ねた中、編み出された決断と言える。

「ペップ(グアルディオラ)は選手時代から監督のように振る舞っていた。たしかなアイデアがあって、それに基づいてプレーしていたね」

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かつて現役時代のシャビはそう語っていたが、名将グアルディオラは一朝一夕で生まれていない。選手時代からあらゆるタイトルを取り尽くしても、少しも立ち止まることがなかった。それは監督になってからも変わらない。学び続け、挑戦し続ける向上心と野心をエネルギーに、直感が結びついているのだ。

たとえば、グアルディオラはバルサ監督就任の時には、中心選手だったロナウジーニョやデコの退団を容赦なく要求していたし、反旗を翻したズラタン・イブラヒモビッチとは袂を分かっているし、シティ時代には横暴なところが多かったヤヤ・トゥーレも戦力外にしている。フィーリングが合わない。そう判断した時、その態度は冷酷ですらある。

指揮官は付き従う者たちのために、ネガティブなものに振り回されてはいけないからだ。

逆に言えば、頑固だからこそ、自らのプレーモデルを信奉できるのだろう。やるべきことをはっきりと認識している。ファンやメディアの批判などに少しも動じない。どんな時も、集団を率いることができる。

そこに、指揮官の個性が出るのだ。

グアルディオラは、「そのフィーリングにおいて、他と一線を画している」と言えるだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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