【社説】企業・団体献金 教訓生かし全面禁止せよ

30年来の約束をほごにするのか。「政治とカネ」に本気で取り組むのであれば、企業・団体献金の禁止は避けて通れないはずだ。

自民党派閥の裏金事件を受け、政治資金規正法改正案の国会審議が大詰めを迎えた。焦点の一つである企業・団体献金の禁止は、自民提出の改正案に含まれていない。公明党も同調している。

企業・団体献金の禁止はこの30年間、国会に課せられた宿題であったはずだ。

きっかけはリクルート事件に端を発した1994年の政治改革である。政財界の癒着が事件を招いた反省から、企業や団体が政治家個人に献金することを禁じ、代わりに税金を原資とする政党交付金制度を創設した。

与野党は政党への企業・団体献金も5年後に見直すことで合意したが、今日まで棚上げされたままだ。

この結果、政党支部の代表を務める政治家個人が実質的に企業・団体献金を受け取ることができ、法の「抜け穴」になっている。

岸田文雄首相は企業・団体献金を禁止しない理由について「憲法上、政治活動の自由の一環として、企業は政治資金の寄付の自由も有する」と国会で繰り返す。

根拠として持ち出すのは、旧八幡製鉄から自民への政治献金を巡る70年の最高裁判決だ。「会社は自然人である国民と同様、政治的行為をなす自由を有する」として株主の上告を退けた。

時代背景の異なる50年以上前の判例を都合よく解釈したところで、国民は納得できないだろう。

何より、企業や団体が提供した資金が絡む政治スキャンダルが絶えない事実は重い。献金元の意向に配慮し、政策がゆがめられているとの批判もやまない。

2022年分の政治資金収支報告書によると、企業・団体献金の総額は約24億5千万円で、自民が9割を超える。約160億円の政党交付金との「二重取り」を放置するわけにはいかない。

経団連は毎年秋に自民の政策を評価し、会員企業に献金を促すなど資金面で支えてきた。十倉雅和会長は「民主政治の維持に相応のコストがかかる。政治寄付は企業の社会貢献の一環として重要だ」と語っている。

社会貢献と言いながら、特定の政党に多額の献金をすることが妥当なのか。利益を追求する企業が献金に何の見返りも求めていないと、株主に説明できるだろうか。

1994年の政治改革に野党・自民の総裁として関わった河野洋平元衆院議長は「企業献金は廃止しないと絶対におかしい。企業献金が政策のゆがみを引き起こしているから、それを止めろということだった」と振り返る。

当時の理念に立ち返り、政治資金規正法を改正して、企業・団体献金の禁止に踏み出すべきだ。

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