【6月19日付社説】保護司殺害/前倒しで安全確保策進めよ

 犯罪や非行をした人に助言するなどして、立ち直りを支える保護司制度の根幹を揺るがしかねない事態だ。

 大津市の住宅で保護司を務めるレストラン経営男性の遺体が見つかった事件で、滋賀県警が殺人の疑いで無職男を逮捕した。男には犯罪歴があり、亡くなった男性が更生支援を担当していた。男は男性宅での面談の際に殺害に及んだ疑いがあるという。

 保護司は、罪を犯して刑務所や少年院を出て保護観察中の人の社会復帰を支援する民間人ボランティアで、交通費などの実費を除いて報酬はない。逮捕容疑が事実であれば、男性は無償の善意による活動がきっかけで被害に遭ったことになる。痛ましい事件というほかない。警察は動機を含めた全容解明を進めてほしい。

 保護司が保護観察対象者だった人物に殺害される事件は1964年に起きて以降は確認されていないものの、今回のようなケースが今後も起きる恐れは拭えない。

 保護司制度を管轄する法務省は、保護司の待遇や活動環境などの見直しに向けた検討を進めている。それに合わせて行った保護司への調査では、保護司を辞めたいと思う理由として「対象者が自宅に来る」ことを挙げる人が一定数いた。また、面談に専門知識を持つ保護観察官の同席などを求める声もあった。

 保護司の安全対策については対象者との関係構築への影響を考慮しつつ、制度見直しとは切り離して早急に実施する必要がある。

 懸念されるのは、新たな保護司確保への影響だ。保護司の多くは65歳以上の高齢者だ。保護司の定年は76歳で現在は人員確保の必要から、特例により78歳まで再任が認められている。今後退任が増えることから、新任者の確保は全国的な課題となっている。今回の事件は現職の保護司に加えて、これから保護司になることを考えている人にとっても新たな不安材料となるに違いない。

 保護司はその重要性にもかかわらず、どのような仕事をしているのかが多くの人に認知されているとは言い難い。危険な目に遭う恐れなどのマイナス面ばかりに目がいってしまう状況は避けなければなるまい。

 来月は、犯罪や非行をした人たちの更生を支えることの大切さについて理解を深める「社会を明るくする運動」の強調月間だ。法務省はこうした機会を生かして、保護司の果たしている役割ややりがいなどを幅広い層に知ってもらうことが重要だ。

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