【廃炉の人材育成】学びの裾野広げて(6月19日)

 福島第1原発の廃炉に関わる人材育成に向け、東京電力が福島大など国内4大学と進めてきた産学連携活動は最終年度を迎えた。原子力関連の職業を希望する若者が減少傾向にあるとされる中、現場作業の進展を阻む課題の解決策を共に考え、学びを広げてもらう取り組みは意義がある。来年度以降は高校生を対象に加えるなど、事業の一層の充実を図ってほしい。

 文部科学省によると、大学・大学院の原子力関連学科への入学者は1993(平成5)年ごろから減る動きが顕著となり、2023(令和5)年は179人で3年前より94人少なかった。東電は数十年続くとされる廃炉を支える技術者の育成、確保を長期的な課題と捉え、東京大と2019年、福島大、東北大、東京工業大とは翌年に協定を結び、学生との共同技術研究を進めてきた。

 これまで41件のテーマを扱っている。福島大共生システム理工学類の学生とは、野生動物の骨片に含まれる放射性物質の計測、セシウムなど複数の核種を同時に計る手法の開発に当たった。卒業後、東電に入社した事例もあるという。他の大学とは、多核種除去設備(ALPS)に沈殿する廃棄物の固化、燃料デブリの形状推計など廃炉の作業を基盤から支える技術の確立を目指した。

 学生は東電社員から直接、廃炉の現状や技術的な課題の説明を受け、業務に理解を深める。現場の生の声に触れる体験は、連携活動で最も有意義なプログラムであり、進路選択の指針にもなるだろう。

 東電は来年度以降も継続する方針だが、13年前の原発事故の要因や想定外の事態に次々と見舞われた収束作業、原子力開発の歴史と世界的な利用状況、必要性などを社会学的な観点から中立公平な立場で教え、考える時間を設けてはどうか。幅広い見識を備えた技術者を養成できる。さらに、県内の高校生に座学と基礎的な実験で原子力を学んでもらう授業の展開も検討してもらいたい。人材確保の裾野の拡大につながる。

 文科省は原子力関連の人材枯渇を懸念し、計60の大学、研究機関などと原子力教育共同体「ANEC」を創設した。東電は運営に協力し、4大学との連携の成果を積極的に生かすべきだ。(菅野龍太)

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