澄むか濁るか

 梅雨入りしたとみられる九州北部の天気は明日から下り坂らしい春の雨が〈しとしと〉ならば、梅雨どきのそれは湿っぽい〈じとじと〉で、晴れ間が待たれる季節に入った▲言葉は濁点ひとつで趣が変わる。自民党の安倍派幹部には、わが身の「大患」になりかねない。政治資金の裏金事件を巡る“新証言”が明るみに出た。幹部たちはとうに過去の話、「対岸」の火事と思っていただろう▲政治資金パーティー券を売りさばいた分の一部を本人に戻す「還流」はいったん中止されたが、後に再開された。復活させるか話し合ったが結論は出ず、それでものちに復活した…。口裏を合わせたように幹部たちの言い分は重なる▲それなのに、事情聴取を受けた派閥の関係者は「幹部の協議で再開が決まった」と供述したという。幹部たちは「毅然(きぜん)」として「結論は出なかった」と語ったが、うそだとしたら「偽善」にほかならない▲国会の会期末が迫る。口をつぐむ幹部たちを「包囲」できるか、逃げ切りという「暴威」を許すか▲自民党のトップ、首相は政治資金規正法の改正案の成立を急ぎ、こちらも幕引きに気が気ではない。信頼回復を誓った〈総理退陣〉の…おやおや、濁点を一つ忘れた。〈総理大臣〉の気迫が今もって伝わらないのは、どうしたことだろう。(徹)

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