<11>求められる揺るがぬ対策 政府の責任・英国編 希望って何ですか

ツー・チャイルド・リミットの廃止を訴える親子連れや慈善団体の代表者ら=4月上旬、ロンドン・労働年金省(エンド・チャイルド・ポバティ提供)

 最も不幸な誕生日-。英国では、4月6日をこう呼ぶ人たちがいる。

 2017年のこの日。ある制度が始まった。「ツー・チャイルド・リミット」

 低所得世帯への公的扶助制度「ユニバーサルクレジット」や「児童タックスクレジット」では子育て世帯に子どもの人数に応じて現金を給付していたが、その対象を2人目までに制限した。具体的には同年4月6日以降に生まれた3人目以降の子どもに対して加算されることがなくなった。

 「対象となる家族は子ども1人当たり年間約3200ポンド(約65万円)を失うことになる。大家族への影響は非常に大きい」

 100を超える児童福祉団体などで構成される連合団体「エンド・チャイルド・ポバティ」のレイチェル・ウォルターズさん(40)は語気を強める。

 最新のデータによると、英国で相対的貧困にある子どもは430万人いるが、制度を撤廃すれば30万人が貧困から抜け出せる。

 「制度を廃止すべきだ」「子どもの貧困を撲滅する時だ」

 同団体は4月、ロンドンにある労働・年金省前で、親子連れや慈善団体の代表者らと共に子ども2人制限の廃止を強く訴えた。

    ◇  ◇

 同制度が始まった17年度、英国の子どもの貧困率(世帯所得の中央値の60%未満で暮らす子どもの割合)は29%。2年後の19年度には早くも31%に悪化した。

 当時は既に子どもの貧困対策を推し進める労働党政権から、対策費を削減する保守党政権に移行。制度の実施は、膨れ上がった財政赤字を減らす緊縮政策の一環だった。

 日本は今年、子どもの貧困対策推進法の施行から10年を迎えた。子どもの貧困率は改善傾向にあるが、英国のように揺り戻しが起きないとは限らない。

 子どもの貧困問題について調査研究する民間団体「チャイルド・ポバティ・アクション・グループ」のリジー・フリューさん(39)は、英国の現状をかみしめながらこうアドバイスをする。「常に前進していかない限り、子どもの貧困対策は後退する」

    ◇  ◇

 今年5月23日。一日中、あいにくの雨となったロンドン。リシ・スナク首相は議会を解散し、7月に総選挙を実施すると発表した。

 選挙戦の中、現地メディアは最大野党である労働党が優勢と報じている。仮に労働党が勝利すれば、子どもの貧困法が施行された10年以来、14年ぶりの政権奪取となる。

 子どもの貧困対策は推し進められるのか。もしその後、さらに政権交代が起これば再び後退を余儀なくされるのか。そもそも、政権によって子どもの置かれる状況は左右されないといけないのか。

 フリューさんは「子どもたちが貧困の中で育つことのないようにするのは政府の責任だ」と強調する。

 揺るぎない「子どもの貧困対策」を求めている。

© 株式会社下野新聞社