林家つる子、三遊亭わん丈、最短記録で初トリ「真打ち昇進が決まったときより10倍うれしい」

会見に登壇した三遊亭わん丈(左)と林家つる子【写真:ENCOUNT編集部】

寄席の記録塗り替える新勢力の2人

落語家の林家つる子と三遊亭わん丈が19日、東京・上野鈴本演芸場で会見し、7月上席公演(1日~10日)でトリ(=主任)をつとめる思いなどを語った。2人は今年3月21日に真打ちに昇進したばかり。「笑点」メンバーの春風亭一之輔の「昇進から5か月」、それを塗り替えた蝶花楼桃花の「昇進から4か月」の記録を軽々と更新し、昇進後3か月10日で初トリという大役をつかんだ。「真打ち昇進が決まったときより10倍うれしい」とわん丈。隣のつる子も「私もそう」と笑顔を見せる大抜てきだ。(取材・文=渡邉寧久)

顔付け(=プログラム)を決めたのは、鈴本の席亭・鈴木敦さんの即断だった。

披露興行が始まった3月21日から収容人員300人の同席は初日から満員立ち見の札止め状態。「お客様から『すぐにトリだね』というお声がけをいただいた。中日(3月25日)前後に、2人に声をかけた」(鈴木社長)というスピード抜てきだった。2人が10日間連続で出演できる7月上席を、初トリ芝居に決定。昼の部をわん丈、夜の部をつる子が締めくくる。

予想もしなかったオファーに驚いたというつる子は「本当にありがたい機会を頂だいしました。10日間、うれしさと同時に不安とプレッシャーが強い」と本音をのぞかせつつ「初めて落語を聞くお客様にも共感していただけるような噺、古典落語のおかみさんとか遊女たちにスポットライトを当てて、今を生きる女性にも共感を得られる感情を抽出して、古典落語の世界観を崩さずに、という挑戦をしてきた。披露目でかけられなかった噺を10日間でかけたいと思います」と前を向いた。

師匠の林家正蔵に報告した際の様子については「喜んでくださいました。同時に『披露目はお祝いでお客様もお越しくださる方も多く披露目とは違う雰囲気になるから、心してかかりなさい。普段つるがやってきたことを高座にかければいい』というお言葉をいただきました」と明かした。

一方のわん丈は、連日満員を記録した披露目を振り返り、「お客様にお越しいただけて、たくさんの拍手をいただいた。ただただ深々お辞儀をして、落語を申し上げるしかないのだな、と覚悟ができ気を引き締めているところでございます」を収穫を口にする。「伝統的でありながらホスピタリティーの高い落語をやらないといけない。真打ち昇進が決まった時の100倍ぐらいうれしいです」と言葉に気持ちを込めると、隣のつる子も「私も同じ」と小さな声で、笑顔で、同意を示した。

真打ち昇進前は、ほとんど一緒に高座に上がらなかったという2人だが、50日間の披露興行期間は、毎日顔を合わせた。その結果、新たに見えた相手のよさもあったようで、つる子は「わん丈君って、私は無敵っていうイメージがすごくあったけど、意外にかわいいところがありました。素直な人、赤ちゃんみたいな人だなと思いました。素直に、これがやりたいっていうことを貫く強さがあって、私も刺激になった。私を鼓舞してくれたと思います」と、同時昇進の相方を最大限にリスペクトする。

「私は人を見る目があるので」と切り出したわん丈は「披露目中、(つる子は)ずっと泣いていた。高座も、私の口上が終わって降りていくと泣いていた。優しい方なんだなって」と感心する一方「私は1回も泣けなかった。千秋楽に(今年1月に亡くなった紙きりの名人、林家)正楽師匠の思い出を話したら涙が止まらなくなって、2分間ぐらい話せなくなった。そのとき、(泣きながらしゃべれるつる子)ねえさんはウソ泣き、泣きながらしゃべるという芸ができる」と笑わせた。

これにはつる子も「本気で泣いて本気でじゃべってる」と笑うばかりだった。渡邉寧久

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