「刺したが待ち伏せはない」“博多ストーカー殺人”元交際相手の男の裁判員裁判 裁判で語る被告の複雑な心境【後編】

JR博多駅の近くで元交際相手の女性を刺して殺害したとして殺人などの罪に問われている寺内進被告の裁判員裁判の初公判が開かれた。

寺内被告が川野さんをストーカーしたかどうかが争点となっている。寺内被告は殺害を認めつつ、ストーカー行為は否定。弁護側は殺人は認めるものの、ストーカー規制法違反には無罪を主張している。

裁判の争点は“ストーカー行為”か否か

住所不定の無職・寺内進被告は、2023年1月、JR博多駅近くの路上で、元交際相手の川野美樹さん(当時38)の帰宅を待ち伏せして追いかけ、包丁で頭や首などを何度も刺して殺害したとされている。

事件から1年5カ月。裁判の大きな争点は、事件当時、寺内被告が川野さんの職場近くの路上に立ち止まり、川野さんを見つけてついて行ったことが「ストーカー行為」にあたるかどうかだ。

罪状認否で寺内被告は「刺したことは間違いないですが、待ち伏せしたことは違います」と証言。寺内被告は川野さん殺害を認めた一方で、待ち伏せしたなどのストーカー行為については否認した。弁護側も殺人罪については認めたうえで「恋愛感情は既に失っていて、それに対する怨恨はない。ストーカー規制法については無罪」と主張した。

検察側は冒頭陳述で、事件発生時の状況を「事件当日、午後6時3分、川野さんを待ち伏せ。3分立ち止まり午後6時6分に歩いていた川野さんを見つける。川野さんへ173メートル追従。午後6時13分、包丁を取り出し逆手で持って前胸部を突き刺す、うつ伏せに倒れた川野さんを少なくとも17回刺した」と主張。そのうえで「被害者を逆恨みした悪質性が高い犯行」「法治国家への挑戦とも言える」と指摘した。

一方、弁護側は冒頭陳述で、事件前、寺内被告は自宅のガスや電気が止められるほど生活が苦しかったと主張した。

「事件当日は博多駅まで携帯料金の支払いに行った。明日からの生活をどうするか迷って立ち止まった。支払うのをやめようと思って引き返したところ被害者が目にとまった。被害者が警察に相談したことなどでカッとなった」としたうえで「いろいろな偶然が重なって起こった事件」と述べ、犯行当時「待ち伏せの事実はない」と反論した。凶器の包丁は護身用に持ち歩いていたとしている。

検察側、弁護側、双方の主張を寺内被告はじっと前を見て聞いていた。

第2回公判で川野さんへの気持ちを語る

そして翌日、開かれた第2回公判。前日同様、寺内被告は俯きがちに廷内に現れた。裁判長からの「体調はお変わりないですか?」との問いかけに「はい」と頷き、「くたびれたら声が小さくなるので、気をつけて」と続ける裁判長に再び「はい」と答えた。

第2回公判で、弁護側の被告人質問に寺内被告は事件当日の状況について「携帯代を払うために現場に行った」と改めてストーカー行為を否定した。

■第2回公判 弁護側被告人質問
弁護側「(川野さんと)会うことを予想していた?」
寺内被告「していないです」
弁護側「待ち伏せは?」
寺内被告「していない」
弁護側「待ち伏せするとしたらどこでする?」
寺内被告「(川野さんの)会社ちゃいますかね」

続く検察側の被告人質問では川野さんへの気持ちを語った。

■第2回公判 検察側被告人質問
検察側「川野さんは好きでしたか?」
寺内被告「そうですね。一緒にいて変えてくれる人。部屋の掃除とか、ドラマを見るのが楽しくなった」

検察側「川野さんは『いつでもあなたの味方』とか、声をかけてくれた?」
寺内被告「はい」
検察側「そういう言葉を聞いてどう思った?」
寺内被告「安心しました」

検察側「交際当時、(被告にとって)川野さんの位置づけは?」
寺内被告「愛していましたね」
検察側「結婚は考えましたか?」
寺内被告「考えていました」

2022年の春、中洲の飲食店で知り合い交際を始めたという寺内被告と川野さん。検察側によると寺内被告は次第に川野さんの浮気を疑い、行動を束縛。これに川野さんは嫌気が差し交際解消を望んだという。

そして2022年10月、寺内被告が川野さんの携帯電話に交際中の写真や動画を大量に送信するなどしたことで2人の破局は決定的になったという。

愛と怒り…そして後悔 寺内被告謝罪

■第2回公判 検察側被告人質問
検察側「あなたにとって当時、ストーカー行為とはどのようなものだと?」
寺内被告「ついてったり、無理矢理しゃべりに行ったり、向こうの嫌なこと」

検察側「あなた自身は川野さんの嫌なことをしているとは思わないと?」
寺内被告「はい」
検察側「川野さんから裏切られたなという気持ちは?」
寺内被告「ありましたね」

検察側「復縁したいという気持ちはあったか?」
寺内被告「最初、言われたときは思いましたね、思っていたと思います」

警察から警告を受けた後も寺内被告は川野さんの勤務先に押しかけたり電話をかけたりしたほか、川野さんに複数のメッセージを送りつけたという。

■LINE画面
「おばはん警察に何言うた」
「おどれ何年かかってでも恨んだるから覚えとれや」
「あんま舐めてると後悔すんぞわしはしつこいからの」

そして寺内被告は謝罪の言葉を口にした。

■第2回公判 検察側被告人質問
検察側「捜査段階で川野さんのことを『一番愛した女性』と?」
寺内被告「はい」
検察側「愛していた女性を殺害したことをどう思う?」
寺内被告「ショックと後悔と申し訳ないという気持ち」

検察側「事件後、いろいろと考えたと思うが、どうすればよかったと?」
寺内被告「包丁を持っていかなかったらよかったなと」

判決は6月28日に言い渡される予定だ。

(テレビ西日本)

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