「子どもたちの大きい成長につながる」1年生から9年生がいる義務教育学校 過疎地で開校 地元住民も「先生」に=静岡・川根本町【現場から、】

静岡県川根本町は2024年春、小学校と中学校を再編して「義務教育学校」を開校しました。ここでは6歳から15歳が一緒に学びます。少子化の中、子どもたちの豊かな成長を願うとともに、新しい町のあり方を模索する試みです。

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<1年生>
「学校描いて!」
<8年生>
「はいよー」

静岡県川根本町の「光の森学園」です。
昼休み、1年生のリクエストに応えて黒板に絵を描くのは、13歳から14歳の「8年生」です。

<光の森学園8年 橋本廉心さん(13)>
「2023年まで本川根中学校の1年生でした。今は8年生です」

光の森学園は、小学校と中学校を再編した「義務教育学校」です。義務教育学校では9年間、それぞれの学校が定めたカリキュラムで学びます。

「小中一貫校」の場合、小学校と中学校の枠組みがあり、それぞれに校長がいて、教職員の組織も分かれています。「義務教育学校」は、小学校と中学校の枠組みがなく、9年間を通して教育を行います。校長は1人で、教職員の組織も1つです。

<光の森学園 山下富士夫校長>
「小中一貫校だと、6年間と3年間をある程度分けて考えるが、義務教育学校は垣根をなくして1年生から9年生が一体という形で教育活動をしている。本校は6―3制ですが、7―2制などいろいろな組み合わせができる」

義務教育学校は、2016年度から自治体の判断で設置できるようになりました。
過疎化が進む川根本町は、小・中学校を再編して2024年度、2校を開校しました。(光の森学園本川根中+本川根小61人)(三ツ星学園中川根中+三ツ星小187人)

<3年生>
「かわいい」
<9年生>
「モリアオガエルだと思うよ」
<3年生>
「知ってる!森にいるアオガエル」

子どもが少ない地域にとって、小学校同士、中学校同士ではない義務教育学校への再編は大きなメリットがあります。

<光の森学園8年担任 塚本昌季教諭>
「この地域だとクラス替えが9年間ないまま、同じメンバーで上の学年に上がる。クラス替えで人間関係が新しくできたり、作る力がはぐくまれていく。だからこそ一番下は6歳、一番上が15歳。この広い年齢の人と関わっていくのは、ものすごく大きい成長につながる」

<8年生>
「はい、掃除です。掃除だよ。掃除行くよー」

<9年生 大野士朗さん(14)>
「基本的なマナーを守るようにしています。(後輩に対して)僕たちがお手本となって、『こういう風に生活するんだよ』と、憧れられる存在になれたらと思っています」

柔軟にカリキュラムを組める強みを生かし、地元の企業での職業体験など「人との関わり」を教育にたっぷりと盛り込みました。

地元の人たちも「先生」として協力します。

<職業体験を受け入れたカーケア中原 中原康夫社長>
「(仕事は)人間対人間だから、口の使い方や目を見て話すことなど、身を持って覚えてもらえたら。社会性も身についていくのではと期待しています」

一方で、心配されるのが使われなくなった学校の周りからにぎわいがなくなることです。2005年に町に8校あった学校は、現在、2つの義務教育学校と川根高校の3校になりました。

<川根本町 秋元伸哉副町長>
「ここは2022年に閉校した中川根南部小学校です。校舎を現在、ドローンを使って物を配送する事業の拠点にしています」

5月に開所したドローンによる物流サービスの拠点「スカイハブ川根本町」です。
町は地区の中心となっていた学校を、新たなにぎわいの場として活用していく方針です。

<川根本町 秋元伸哉副町長>
「進路の選択で町を出る子どもたちも多いですが、将来また戻ってきたくなるような町づくりをしていくことが我々の役割だと感じています。義務教育学校は開校したばかりですが、地域の皆様、町と一体となって支えていきたい」

後期高齢者の割合が、静岡県内で最も高い町が取り組む新しい教育。地域の宝・子どもたちを町が一丸となってはぐくみます。

<島田支局 篠原大和記者>
静岡県内初めての義務教育学校は2018年に伊豆市で開校し、川根本町の2校は県内2つ目、3つ目となります。さらに牧之原市も10校の小中学校を再編して2校の義務教育学校を作る方針で、県内でも設置の動きが広がっています。

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