【改正規正法成立】国民の信任得られるか(6月20日)

 自民党派閥の裏金事件を受けた改正政治資金規正法は結局、与党のみの賛成で成立した。お金を巡る社会の規範とは隔たる図式に憤り、「火の玉になって」との覚悟に期待もした。そんな国民の負託に応える決着だと、岸田首相は本当に胸を張って言えるだろうか。疑問ばかりが先に立つ。

 政治資金パーティー券購入者名の公開基準額を5万円超に引き下げたのは、首相の独断で公明党との連立を重視した結果だと伝わる。党内に不満がくすぶり、野党側にも異論はあるが、政治とカネの問題を解消してゆく過程の一つと見れば前進ではある。

 ただ、本則に今後、実効性のある中身を詰め込むには党内を束ねる求心力と主導力が必要だ。10万円超の自民党案の堅持を求めた麻生副総裁との溝が広がり、関係修復に腐心するような党総裁の姿はもどかしい。

 肝心な部分は付則に積み残る。政策活動費は年間支出額の上限を定め、10年後の領収書の公開を検討するとされた。黒塗りの公開は否定されていない。過去の付則の取り扱いを踏まえれば、棚上げされる懸念も拭えない。

 規正法違反罪に問われた自民党安倍派の事務局長は、幹部4人が出席した協議で還流再開が決まったと公判で証言した。幹部側は「協議では結論は出なかった」などの主張を繰り返し、疑惑が再び深まった中での改正法の成立には割り切れなさが残る。調査研究広報滞在費(旧文通費)の改革は、自民党と日本維新の会の公党間、党首間の「約束」の所在を巡って迷走した。

 裏金事件の疑惑が公判で上書きされ、旧文通費などの懸案が残っても、会期は延長されない見通しだ。岸田首相は閉会中も責任を持って検討を前に進めるべきだ。

 自民党内は9月の総裁選を見据えた動きが活発化しているという。仮に体制が変わったとしても、政治不信は置き去りでは支持回復などおぼつかない。

 立憲民主党は内閣不信任決議案を20日に提出する。泉代表は党首討論で衆院解散を迫ったが、政党支持率は政権を取る域には達していない。

 政権維持、交代のどちらにしても、信頼や安定感がなければ有権者の選択肢にはなり得ない。与野党は肝に銘じてもらいたい。(五十嵐稔)

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