文化財保護困った 虫、カビ防ぐ燻蒸ガス 来春販売終了 福島県立博物館 新たな管理法模索

燻蒸前の収蔵品を目にしながら、文化財の管理に悩む原さん=県立博物館

 文化財に有害な虫やカビを除く燻蒸(くんじょう)について、国内の有力な燻蒸ガスの製造会社が来春の販売終了を発表し、文化財保護の関係者に困惑が広がっている。文書をパックに入れ低酸素化する手法などに移行するようになるが、民具や木材など大型の文化財は対応が難しいのが実情だ。後世に残していく重要な史料の劣化を防ぐため、関係者は虫やカビを発生させない環境づくりを模索している。

 販売を終了するガスは日本液炭(東京都)の「エキヒュームS」で酸化エチレンを主成分にしている。DNAに影響し虫やカビを除去する効果があり、半世紀にわたって中心的に使われてきた。原料となるガスの値上がりで収益が悪化した上、環境へ配慮する観点などから販売を終えることになった。文化財燻蒸には他に2種類のガスが使われるが、効果が虫に限られるなどするため、文化財関係者がより良い策を検討している。

 福島県会津若松市の県立博物館は年2回ほど、業者が派遣する燻蒸トラックを利用し収蔵品を管理してきた。エキヒュームSを使用している業者のため、来年3月以降の管理に頭を悩ませている。博物館は毎年、寄贈などで多くの収蔵品を追加している。昨年度は約400点を新たに収蔵し、千点を超える年もある。総合博物館のため古文書、掛け軸、絵画、仏像、土器、衣類など種類はさまざま。寄せられた品は一時収蔵庫に保管し、燻蒸作業を経て収蔵庫に入れている。

 主任学芸員の原恵理子さんは、文化財に害を与える生物に対し、物理的・生物的・化学的な防除方法を組み合わせ被害を防ぐ保存管理体制「文化財IPM」の検討が必要だと考えている。保管場所に空気の通り道をつくり湿気がこもらないようにするなど管理の環境を整備しなければならないが、収蔵庫にスペースの余裕はない。現時点で新たな対応策は決まっていない。「燻蒸すれば大丈夫という安心感があったのでとても不安。目視で虫やカビを確認する必要が出てくる可能性もあり意識を変えなくてはならない」と緊張感を抱く。

 文化財保護の調査研究に携わる東京文化財研究所は環境を整える文化財IPMを推奨している。殺虫する手法としてガス燻蒸以外に、低温、低酸素、高温、二酸化炭素による処理などがあるがカビを殺すのは難しく、発生させないことが重要になるとする。生物科学研究室の佐藤嘉則室長は「人と環境に優しい虫害対策がこれからは求められる。文化財IPMをより高度化しカビを制御していく必要がある」と指摘している。

■温湿度管理で効果 古文書収蔵施設

 古文書を中心に収蔵する施設は以前からガス燻蒸に頼らずに文化財を守ってきた。福島市の県歴史資料館は低酸素化や湿度管理で史料を保護している。新たに収蔵した際に袋状のパックに文書と脱酸素剤を入れ虫の成虫や卵が死に絶える1カ月以上置く。収蔵庫は湿度60%を切るのを目安に管理し、床などのほこりを定期的に除去、カビの発生を抑える。虫の発生状況を確認するためモニタリング用の捕虫わなを仕掛けている。これまでに大きな問題は確認されておらず、温湿度管理といった環境維持で一定の効果を上げている。

※文化財害虫 130種類ほどが知られている。特に被害が多いのはシロアリ、ゴキブリ、カミキリムシ、ハチなど30種以上で、文書を食べたり体液を付けたりする。東京文化財研究所は今春、対策に役立ててもらうため、特徴や被害材から害虫の種類を簡単に特定できるサイトを開設した。

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