『ブルーモーメント』第9話 原作改変で薄まる哲学と、ふくらむスペクタクル

思えば『ブルーモーメント』(フジテレビ系)って、4月クールでは断トツに遅い4月24日スタートだったんですよね。で、次回の最終回が第10話で6月26日の放送。

コミックたった3巻の原作からエピソードを抽出して10話分の脚本を作るのは大変な作業だったと思います。それにしても。それにしてもよ、今回の第9話。あまりにも無駄足を踏んでいるというか、ただ時間を埋めるだけの回になってしまいました。

まあ、日テレの『ACMA:GAME アクマゲーム』なんて原作22巻もあって、あの体たらくですからね。『ブルーモーメント』はよくやってる方だと思う。振り返りましょう。

■開始40分まで未曾有の台風、来ず

ラス前と最終回は、過去に類を見ないスーパー台風が都心を直撃。未曾有の被害が出るお話だと予告されていました。

ところが、始まって見れば「SDM」のトップである園部大臣(舘ひろし)についての変な怪文書が出回り、なんだかよくわからない裏金疑惑が浮上。それを解決ともいえない方法で解決することで「SDM」が正常化するという、もう回り道としか言えない回り道に時間を費やしました。

もともと園部大臣は亡くなった娘さんのために「SDM」を立ち上げたという人物なわけで、見ている側としても、今さら「実は悪い人でした」なんて展開が訪れる可能性はハナから排除しているわけです。

今回のお話の肝要としては、スーパー台風が来るぞということになって、「SDM」としては指揮系統を握って大規模な避難計画を実行したい、関東一都四県の首長たちは、そんな桁外れの避難計画を実行して空振りしたらどうすんの? という責任問題があって、通常の避難スキームで対応したいという対立の構図なんですね。それを、「SDM」側がどう説得するのかというところにドラマを生みたいというお話。

以前にも書きましたが、『ブルーモーメント』という作品は、その根っこの部分に「ひとりでも災害死を減らしたい」というちゃんとした願いがあって、そのために「災害」と「避難」というものを改めて定義してお知らせしようという信念が感じられたんです。

その中で「行政の事なかれ主義」というものも障害のひとつとして取り上げている。

今回のドラマの中では、地方行政側が「SDM」の言うことを聞きたくない理由が、「園部大臣に裏金疑惑があるから」とされました。で、その疑惑が解消されたから「SDM」の言うことを聞こうとなっている。

本来なら、スーパー台風という「特別」な災害を、行政側が「普通」として対応しようとする恐ろしさを描くべきところなので、「園部大臣の裏金疑惑」というドラが乗ってしまうことで、状況が少しだけ「普通」ではなくなってしまっている。

ただ時間を埋めるためだけに創作した園部大臣の疑惑のエピソードが、本来語りたかったはずの恐怖にノイズを与えてしまっているんです。

このドラマでは、けっこうそういうことが起こっています。最初のほうで「二次災害は絶対に起こしてはいけない」「救助者側も引くべきときは引け」というシビアな哲学を語っていたにもかかわらず、前々回で上野さん(平岩紙)が絵に描いたような二次災害で命を落とし、それを美談として扱っている。

テレビドラマとして成立させるために追加した部分が、作品のコアを薄めている。そういうところがある。

■でもやっぱ救出劇の緊迫感はたまらん

それでもラスト15分では、お待ちかねのスペクタクルが始まりました。

スーパー台風によって引き起こされた豪雨災害で道路が陥没。レスキューが穴の中に入っていって心肺停止者を何人も発見していくところなんか、興奮しましたね。こういうところは、ドラマ化において追加した部分がいい方向に作用しています。

そもそも、医療班の夏帆や警察班の橋本じゅんなんかが「SDM」に加わって、それぞれ存在感を発揮しているのもいいところです。

たったコミック3巻の原作から、10話のドラマを作るのは大変な作業だと思う。追加してよかったところもあれば、よくなかったところもある。

前回のレビューの繰り返しになりますが、もう基本的には未曾有の大災害に立ち向かう「SDM」の活躍ぶり、そのスペクタクルだけ見られれば満足ですので、次回の最終回はそこだけがんばってほしいところです。

ハルカン、がんば!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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