35歳でNBAの優勝指揮官に!セルティックスを頂点に導いたマズーラHCがヒントを得たのは、サッカー界の名門チーム&名将<DUNKSHOOT>

NBA歴代最多となる18回目の優勝を達成したボストン・セルティックス。チームを率いたのは、35歳(6月30日に36歳)のジョー・マズーラHC(ヘッドコーチ)だ。

チーム最年長のアル・ホーフォード(38歳)よりも年下という若さに注目が集まるマズーラHCだが、自身のコーチングにサッカーの戦術を取り入れていたというのも非常に興味深い。

彼は子どもの頃から多種多様なスポーツに親しんできたというが、サッカーもそのうちのひとつだった。

「あらゆるポジションを転々とした。あまり上手くない時は、いろいろと試されるんだ」と本人はコメントしているが、それがかえって、彼にサッカーという競技の「美しさ」と「奥深さ」を理解させる体験となったのだという。

「バスケットボールは統計によって定義される部分が大きく、スター選手が何点取ったかを見て、パフォーマンスを判断する。一方サッカーでは、ある選手がどれくらいのインパクトを与えているかを知るには、試合全体を注意深く観察しなければならないんだ」
大学ではバスケをプレーしていたマズーラだったが、サッカー熱が消えることはなく、当時スペインのFCバルセロナを率いて2度のチャンピオンズリーグ優勝を果たすなど、目覚ましい手腕を発揮していたジョゼップ・グアルディオラ監督が尊敬の対象となった。

マズーラは、「グアルディオラはあらゆるスポーツ、あらゆるレベルにおいて、現在世界最高の指導者」であると描写している。

そして実際、2022年の冬にマズーラはグアルディオラが指揮を執るマンチェスター・シティを訪ね、直々に交流する機会をもった。当時セルティックスのアシスタントコーチだったマズーラは、マンチェスター・シティのプレーを分析していたのだった。

マズーラが応用しているグアルディオラの戦術的発想は大きく分けて2つある。トランジションでの動きと、パスの連動でゴール=シュートチャンスを切り開いていく動きだ。

バスケもサッカーも、攻守の切り替え、すなわちトランジションが目まぐるしく起こる。モダンサッカーでは、攻撃手がいかに第一のディフェンスの砦になれるかが重要になっているが、マズーラも、守備に転じた瞬間の攻撃手のポジショニングを重要視していた。 もうひとつが、パスを連動させながら、最適なシュートチャンスを生み出す動き。最大限にパスを回すことを主眼とするが、それはただポゼッションを目的にボールを回すことではなく、ボール、そしてオフ・ザ・ボールの選手も含めた“人”が巧みに絡み合って動くことで、最も効果的にシュートを狙えるタイミングやポジションを作り出していく、という考えに基づいたものだ。

マズーラは実際に、シティの試合の映像を何度かセルティックスの選手たちに見せていたそうだ。

ルーキーのジョーダン・ウォルシュは、「(シティの)選手の動き方からインスピレーションを得たり、自身のパーソナリティーやメンタリティーを全面に出してプレーすること」をコーチが求めていたと、このファイナル期間中にコメントしている。
ファイナル初戦のTDガーデンには、“ペップ” グアルディオラ本人の姿もあった。

マズーラは、「ダラスは最もインテリジェントなディフェンスをするチームのひとつだ。彼らに対抗するにはクリエイティブである必要があった。ペップはトランジションプレーや選手たちの動き方についてアドバイスをくれた」と、シリーズ中も偉大な名将から助言を受けていたことを明かした。

1968年に、選手兼コーチとしてセルティックスを優勝に導いた当時34歳のビル・ラッセルに次ぐ若さで優勝トロフィーを掲げたマズーラHCを、ガードのデリック・ホワイトは「戦術の天才」と呼んでいる。

サッカーをはじめ、スポーツ界には近年、選手としては大成していないが、早くから指導者の道に進み、柔軟な発想で新たなアイデアを注入する若くて有能な指揮官が出現している。NCAAのウエストバージニア大でプレーするも、卒業後はプロにならずに即指導者の道に進んだ35歳のマズーラも、まさにその1人だ。

ヘッドコーチとして輝かしいキャリアを踏み出したばかりの彼は、これからどんなスペクタクルを見せてくれるのだろうか。

文●小川由紀子

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