激突!地下格団体抗争戦―血しぶきと気炎に染まった喧嘩バトルの全貌

悪そうな奴は大体集合!――『和魂 JAPAN GOD FATHER DON M~関東地下格団体対抗戦~』なるイベントが6月9日、横浜ベイホールで開催され、タトゥーまみれのアウトローたちが血しぶきを撒き散らしながら殴り合った。地下格闘技(以下、地下格)の団体対抗戦が行われるのは非常に稀らしく、会場にはその世界では有名なコワモテたちが大集結。足の踏み場がないほどの混雑ぶりで、誰かの足を踏んだら命取りな現場から、戦々恐々のレポートをお届けしよう(文中敬称略)。

日本で一番“アウトロー密度”の高い場所

みなと横浜の倉庫地帯に佇む会場に、半グレ風の若者や本職風の御仁が続々と吸い込まれていく。入口では大柄な黒人セキュリティー複数名が、トラブルを未然に防ぐべく睨みを利かせている。来場者のフェードカット率は約7割で、ガニ股率は約8割。「今、日本で一番“アウトロー密度”の高い場所はここ!」そう断言しても差し支えなさそうな雰囲気だ。

今回が初開催となる『和魂 JAPAN GOD FATHER DON M』は、「和魂」「飛車角」「三河幕府」「益荒男」「Number1」「血闘祭」「大和魂」といった関東を代表する地下格団体が一堂に会し、拳を交える喧嘩イベント。当日は「RIZIN」の開催日でもあったが、そっちを見ずにこっちに来ている時点で、ここにいる面々は「正統派の格闘技よりも不良の喧嘩が好き」なのだろう。

大会を主催するのは、関東地下格の創始者といわれる「和魂」代表の米山和宏。にこやかな表情が印象的だが、行き交うコワモテたちが最敬礼をしていくので、この世界では重鎮中の重鎮に違いない。恐る恐る近づいて話を聞いた。

――なぜこの大会を立ち上げようと思ったのでしょう?

米山 「BreakingDown」の影響もあってか各地で格闘技が盛んになっているのはいいことですが、その一方で、昔からやっている「飛車角」「益荒男」「Number1」といった老舗の地下格団体が隅に追いやられるのはよくないと思いまして。ここで今一度、関東の地下格の凄さをみなさんに見てもらいたくて、各団体が集結したビッグイベントを開催することにしました。

――複数の団体を束ねるのは大変だったのでは?

米山 はい、うちの団体(和魂)は、前身の「武将」から数えると約20年の歴史があるんですが、そのほかにも10年以上続いている団体が関東にはいくつもあります。それぞれ自分のところのルールやこだわりがあるので、「よそに合わせるのは難しい」という声も多く、その説得や調整に大変苦労しました。それでもどうしても実現したかったので、時には他団体の代表をキャバクラで接待しながら口説き落としたりもしました(笑)。

――結局、どういうルールに落ち着いたのでしょう?

米山 いわゆる“喧嘩ルール”ですね。ダメなことを言った方が早くて、「目潰し、金的攻撃、髪掴み」はNG。あとはなんでもありというルールで、「3分1ラウンド、延長なし」です。それと地下格ならではの醍醐味としてどうしても入れたかったのが、「飛び入りマッチ」。今日も観客から選手を募って、即席で3試合ほど組む予定なので、楽しみにしていてください。

――危険なファイトがたくさん見られそうですね。

米山 はい。でも誤解なきよう言っておきますと、喧嘩ルールと謳ってはいますが、ルールあっての試合なので、ある種スポーツと捉えていただきたいです。エネルギーを持て余した若者に、身近なところで夢中になれるものを提供したいという目的もあります。そして、私はプロへのルートも持っていますので、可能性のある子には表舞台に出るチャンスも与えていきたいですね。

――ところで、『和魂 JAPAN GOD FATHER DON M』という大会名には、どういう意味が込められているのでしょう?

米山 日本に長くお住まいで私とも付き合いの長い、ゴットファーザーの末裔であり、作家や飲食店経営もされているマリオ・ルチアーノさんにお願いして、大会のエンブレムになっていただいたんですよ。そう、MはマリオのMです。マリオさんのネームバリューのおかげで、こうして大勢のアングラの人たちが集まってくれました。

会場はまさに「大勢のアングラの人たち」で溢れ返っており、立錐の余地もない。下手に誰かとぶつかったり足を踏んづけたりしたらブン殴られる危険性があるため、爪先立ち&忍び足でバックステージに逃げ込むと、そこには人気Vシネマ「日本統一」で見たことがある人物がいた。俳優の中澤達也だ。中澤は長年「益荒男」の代表も務めており、この日は選手の応援に駆けつけたという。

会場のロビーを覗いてみると、そこはアウトローたちの社交場と化していた。中でも別格のオーラを発していたのが、「地下格のレジェンド」と呼ぶにふさわしい以下の2名だ。

そうこうしているうちに場内が騒がしくなり、大会が始まった。「益荒男」vs「飛車角」、「大和魂」vs「三河幕府」といった団体対抗戦のほか、地域対抗チーム戦、ワンマッチ、飛び入りマッチなどで構成されたプログラム。喧嘩ルールにふさわしく、ゴングと同時にフルスロットルの殴り合いが始まるケースが多く、3分1ラウンド、延長なしなので、試合がテンポよく進んでいく。

寝たまま試合が膠着しそうになると、レフェリーが即座に引き剥がし、両者を無理やり向き合わせる。ケージが狭くて低いため、セコンド陣は身を乗り出すようにして声援を送る。MCからも「止まるんじゃねえ!」「どっちも行け!」「チョーパン(頭突き)ありだぞ!」「おら、時間がねえぞ!」といった煽りが入り、場内のスピーカーからは攻撃的なBGMが大音量で流れ続けているため、試合がまったりする暇がない。まるで闘鶏を見ているかのようだ。

「BreakingDown」も喧嘩テイストを売りにしているが、最近では選手の“格闘家色”が強まり、延長戦を想定した戦いを行う者も増えているため、1分間でスカッと決着するケースが減ってきている。

その点、この『和魂 JAPAN GOD FATHER DON M』は延長戦がないため、選手はしょっぱなから全力で行く。1分なら先にポイントを取った者が判定狙いで逃げ切ることができても、狭いケージで3分あると、それは難しい。結果、相手を潰しに行くしかなく、3分あれば自ずと優劣も明白になる、という非常によくできたルールなのだ。

朝倉未来は「喧嘩は1分で勝負がつく」と語ったが、長い歴史を持つ地下格の見地からすると「喧嘩は3分で勝負がつく」というのが真実なのかもしれない。

後半戦に入ると、主催者が目玉の一つとして挙げた「飛び入りマッチ」がスタート。ここで一人の男が大きな喝采を浴びた。「BreakingDown」で人気のメカ君だ。実はメカ君、「飛車角」の選手でもあるのだが、この日は試合が組まれておらず、応援団の一人として客席にいたらしい。

ところが、「飛び入りマッチ」の参加希望者がなかなか集まらない状況に業を煮やしたのか、メカ君が急きょ立候補。客席から勢いよくケージ入りすると、私服のまま試合を行い、パンチと頭突きを連発して圧勝を収めたのだ。

試合を終えたメカ君は、「俺は地下格を代表して戦っている。これからも地下格を引っ張っていく」と声高らかにマイクアピール。全国区の人気者になった今も、自分を育ててくれた地下格に対する愛と誇りを忘れていない。そんな義理堅い一面を見せ、会場は大きな拍手と感動に包まれたのだった。

コワモテだらけの会場だったが、結局トラブルは起きなかった。どの試合も応援団がエキサイトするものの、器物を破損したり相手方に絡んだりする場面は皆無。これも一重に「団体やチームの親分、ひいては大会主催者の顔を潰してはならない」という、アウトローの縦社会で培われた規律遵守の精神なのかもしれない。選手同士も試合が終わればノーサイド。互いに健闘を讃え合う場面がそこここで見られ、全体としてスポーツマンシップが漂っていた。

成功裏に終わった『和魂 JAPAN GOD FATHER DON M』だが、これは一度きりの祭典ではない。今年の11月には、関東のみならず、名古屋、大阪、京都の主要団体も集め、横浜ベイホールにて「喧嘩日本一決定戦」を行うそうなので、地下格の熱気を体感したい人はぜひ足を運んでみよう。

(取材・文=岡林敬太/撮影=尾藤能暢)

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