子どもの虫刺され跡を指摘、発熱で連絡も迎えに来ず…保育士が感じる親からのプレッシャー

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 福井県内のある母親は保育園に迎えにくると、子どもの体全体の肌の様子をチェックする。虫刺されのような小さな跡も見逃さず、「朝にはありませんでしたけど」と保育士に言う。

 園長は「園でけがをすれば、親には事前に説明する。でも、子どもたちは遊び回っており、保育士が気付かないこともある。親からのプレッシャーに耐えられず、辞めていく保育士もいる」と嘆く。

 ある保育士は、遊んでいて、たんこぶができた子どもの親から1時間以上責められ、別の保育士は「SNS(交流サイト)に載せたら、ひどいことになるよ」と言われた。園を飛び越えて、市町の担当部署に不満を伝えられることもある。

 「親が保育園に頼りすぎ」という声もある。園で子どもの体温を測ると38度あり、親に連絡すると「仕事だから迎えに行けない」と言われた。ある保育士は「小学校なら37度でも電話があり、迎えに来るように言われると、親は従う。でも保育園だと迎えに行かない傾向がある」、別の保育士は「親は『保育園なら多少の無理を言っても対応してくれる』と思っている」と吐露する。

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 1989年、合計特殊出生率は当時の戦後最低を記録し「1.57ショック」と呼ばれた。国が対策に本腰を入れる契機となり、94年には子育て支援の指針となる「エンゼルプラン」が策定された。計画の中で「保育サービス」という言葉が使われた。

 県私立幼稚園・認定こども園協会の徳本達之会長(64)は「サービスという言葉によって、園はサービス提供者、保護者はサービスを受ける消費者という構図になった。消費者という立場で、園に対して何でも要求すればいいと思っている保護者が増えたのではないか」と推測する。

 ある保育士は「子育て支援として保育料が無償化されたことで、親にとって保育園に預けることは当たり前という感覚になり、保育士に対する態度も変わっていった」と話す。

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 子どもの発達の偏りも保育士と親の関係に微妙な影響を与えている。複数の保育士は「発達障害、もしくはグレーゾーンの園児の割合は増えている。子どもの発達の偏りを、親にどう伝えるかは非常に悩ましい」。文部科学省の2022年の調査によると、公立小中学校の通常学級で、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害がある児童生徒は8.8%と推定され、12年調査から2.3ポイント増えた。小学校のみでは10.4%だった。

 家で親子で過ごしているときは、発達の偏りは見えにくいが、園での団体生活になると、協調性がない行動をとるなど、一目瞭然という。徳本会長は「言葉を選びながら親に伝え、専門機関につなげていくことも園の役割。家庭と園が協働して子どもを育てていくという関係性が本来のあり方」と話す。

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 50代女性保育士は「自分が出産、子育てを経験したことで、親との信頼関係を築きやすくなった。保育士のちょっとした言葉が親を傷つけることもある。若い保育士には出産、子育てを経ても辞めず、親の気持ちにも寄り添える保育を続けてほしい」とエールを送る。

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