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原田衛は強く、速く、正直なアスリートだ。
「えーと、まだできるのに、何でやろう? …とは思いましたけども」
本人がこう漏らしたのは、副将を務める東芝ブレイブルーパス東京主催のオンライン取材でのことだ。
今季のリーグワンのレギュラーシーズンが始まって間もない頃だった。開幕直前にその年度限りの引退を表明した、堀江翔太について聞かれていた。
原田と同じフッカーのポジションで、日本代表として4度のワールドカップに出たレジェンドのリタイアへ、ひとまず「まだできるのに、何でやろう?」と触れる。
ここからは、敬意を表す流れで自身の初代表への思いも率直に吐露する。
「まぁ、正味、言うと、安心というか、ライバルがひとり減ったというか。次に、行きやすくなったというのは率直な感想で。…ただ、それは置いておいて、これまで4大会、ワールドカップに出場している堀江さんのことは尊敬していますし、凄いと思います」
実質1年目の2022年度から名門のレギュラーだった原田は、以後、クラブにとって14季ぶりの日本一に喜ぶ。副将として、堀江のいた埼玉パナソニックワイルドナイツを下すのだ。
その間も強く、速く、正直だった。
味方のパスをもらい、防御の隙間を入れ違いの形で抜けるという得意技について問われたら、投げ手と自分とのスピードの落差のおかげでファインプレーに見えるのだろうといった旨をフランクに話した。
ラインアウトの投入への笛が厳格になりつつある傾向について、「相手(の選手が投げたものが反則と)取られるのも…」と、ゲームの興が覚めうるリスクを指摘する日もあった。
本心のままに生き、かつ、どこか知性的。そのキャラクターは、対面への鋭いタックル、突進とも重なるような。
身長175センチ、体重101キロ。兵庫県出身で、神奈川の桐蔭学園高に一般入試で入り、9月入試で加わった慶大では主将を担った。
己に厳しくある流れで周りの熱を高める青年は、この夏、25歳にして日本代表に名を連ねた。
6月22日には東京・国立競技場で、イングランド代表とぶつかる。昨秋のワールドカップフランス大会で敗れた強国だ。その大会は日本代表が予選プールで敗れた傍ら、イングランド代表は3位に終わっている。
今度のビッグマッチで、原田は2番をつけ先発する。念願が叶ったか。否。かねてこの調子だ。
「日本代表については、選ばれるのと勝つのをセットで考えていた。日本代表を目指して始めてから、ずっとそう考えています。それは大学1年生くらいですかね」
6日から約2週間の宮崎合宿では、毎朝4時半に起床。6時からの「ロケットスタート」を皮切りに、ミーティング、実戦形式練習、連携の確認を繰り返す。
今回はワールドカップ経験者の多くが代表活動を辞退していて、首脳陣も刷新されたばかり。約9年ぶりに再登板したエディー・ジョーンズの謳う「超速ラグビー」を、突貫工事で落とし込む。
ハマればとめどない波状攻撃をもたらしそうな「超速ラグビー」について、原田は「(止まっている暇がなく)きついっす。でも、これをしないと勝てないな、とは感じます」。体格差と経験値で下回るなかで、活路を見出す。
「向こうより速くセットして(位置について)、速く考えて、速く集団的に動いたら…チャンスはあると思います」
向こうが強みにするスクラムは、最前列の中央でリードする。元ニュージーランド代表プロップのオーウェン・フランクス新アシスタントコーチの指導もと、組む前の掴み合いから勝負をかけるつもりだ。
「相手にとって居心地の悪いようなセットアップ(予備動作)にすれば、勝機はある」
それにしても、代表デビュー時に戦うのがラグビーの母国と呼ばれるような伝統国となるとは。
かように水を向けられると…。
「そういう人生なので。日頃の行いが、奏功しているのかなと」
強く、速く、正直なアスリートにとって、ふさわしいステージが待っている。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)