【森山佳郎×岩本輝雄 スペシャル対談】元世代別代表監督がチームにもたらした変化 見据えるベガルタの未来

世代別日本代表監督を歴任してきた森山佳郎氏を監督に迎え、新たな船出を切ったJ2ベガルタ仙台。リーグ後半戦に突入し、6位(※20節終了時点)とプレーオフ進出圏内を維持している。昨季16位と低迷したクラブは大きな変貌を遂げつつある。J初采配の指揮官がクラブにもたらした変化とは。ベガルタOBで日本代表としても活躍した岩本輝雄氏がインタビュアーとなり、クラブの現在と未来に迫る。

「寝ても覚めても」ベガルタ漬けの毎日

ーお久しぶりです。仙台は慣れましたか?
「慣れましたね。練習場と家が近く、その往復の途中にあるショッピングセンターに寄って、値引きのシールが貼ってある総菜を買って帰り、食べる毎日です」

ーお酒は
「仙台に来てほとんど飲まなくなりましたね。自分たちの試合の映像、相手チームの映像も見なければならない。すでに10試合以上あるので、さかのぼったらきりがないじゃないですか。食事中も映像を見ています」

ー他の監督と話す機会があるのですが、戦術や相手チーム、味方のけが…。いろんな事が頭の中でぐるぐる回ると。やっぱり一緒ですか
「トイレに行っていても、寝ていて少し目が覚めた時にも、『あの時こうしたら良かった』とか『次はこういう相手だからこうした方がいい』『いやこっちの方がいいかもしれない』と、いろいろなことが頭の中をよぎります。よく言うのですが、試合に勝った日の夜くらいしか、心落ち着くときがない。『勝った日の夜ぐらい一杯酔わせてよ』という気分にはなります」

ーそういう時、どのように、いつ、戦い方を決めるんですか
「アイデアを出すのはもちろん、スタッフと相談して試合の2日前には。選手にこういうふうにいくぞと言って、それに沿った練習をするので、その前までには決めておく感じですね」

薄氷の勝利で積み上げた勝ち点

ー前半戦を振り返って
「順位的には良い位置にいますが、内容的にはまだまだ。ギリギリでなんとか勝ち点3を取って…そういうゲームが多かった。2点差以上で勝った試合が1試合しかない。(J2第10節対山形戦)9勝のうち8試合全てが1点差の勝利。それらの試合も、最後まで体張って、なんとか1点リードを保って…という試合がほとんどでした」

ー去年であれば失点しているシーンも今年は守れている
「完全にフリーでシュートさせないことなどをこだわってやっています。少しラインを上げて、キーパーとの間のスペースを確保して、『このあたりから打たれても林はセーブしてくれる』というところでプレッシャーをかけることを意識している。ある意味内容が悪くても勝ち点を持ち帰ることができたという意味では、よく頑張った前半戦だったかなと思います」

後半戦を戦い抜くために

ー前半戦、攻撃面で良かったところは。
「強力な個の力で解決してくれるアタッカーはいないので、リーグ戦序盤は6試合で4得点という苦しいスタートでした。一方で、序盤以降は1試合平均1.5点くらい取れています。まだまだクロスや中央のコンビネーションなどの質は足りない部分が多いですが、ボール保持率が上がってきていて、中央と外の使い分け、相手の目線を変えさせたりするようなところなど、攻撃のバリエーションは増えてきたかなと感じています」

ー得点が少ない点について。「後半もう1点行くぞ」でなく守りに入っているのか、それとも単純に追加点をとれないのか
「守りに入っているというのが現状です。1点リードしてからの戦いというのが大きな課題。
攻め込まれたとき、プレッシャー受けたときに、ボールをつないで打開していくという感じよりも、勝っているし危ないから、相手の背後に蹴っておこうみたいな選択になることがまだ多い。そこは勇気を持ってやっていこうと。ラスト10分ぐらいまでは守るよりも1点入れる方が勝利に近いよと選手に伝えています。一方で、守り切るところは、彼らの頑張る、頑張れるという良さでもある」

「育成」のための「補強」も?

ーセンターフォワード欲しいですよね、補強とか。
「欲しいですね(笑)それはどこのクラブでも」

ー清水も長崎も外国人アタッカー陣が強烈。そういう選手がいると、3点目4点目の可能性高まるのでは
「それはありますけど、自分も日本サッカー協会にいた人間。日本人のアタッカー、日本人を中心にした攻撃をという思いがあります」

ー押し込まれたらなかなか耐えきれていない。そこで1人で打開してくれる選手とかも今後、昇格には必要なのかなと思いますが。
「岡山に負けた時も、ルカオ選手にかなりやられました。大きくて速くて強い選手にうちのディフェンダー陣は苦戦しがちなので、普段の練習からそういう相手と対峙するという所も必要かなと思っている。普段対峙してないことで、ボールを奪いに行ったけど逆に突破される…。そういう経験をトレーニングからできればという側面では、ああいう選手が1人いるといいなとは思いますね」

手応え感じた「みちのくダービー」

ー前半戦、手応えを感じた試合、理想的な試合は
「みちのくダービーの山形戦ですね。山形サポーターも満席で、仙台サポーターも絶対山形だけには負けたくないという方が多いようで。負けた方がサポーターからお叱りを受けるというような試合(笑)。お互いがメンタルも頭も100%の中で戦うようなゲームで、いい形で前半得点取ることができて、後半は多少押し込まれながらも、逆にそこからやり返すというシーンもいくつか作ることができた。2点差での勝利が、そのゲームだけ。もう1戦は横浜FC戦。前半0-1で負けていて、後半2点返して逆転した。あの相手に対し、ビハインドから逆転できたというのは大きな自信になりました。

前半戦MVPは「神様仏様…」

ー前半戦のMVPは
「林(彰洋)です。林がいなかったら大変なことになってたゲームは多い。どの試合も2、3回は『神様・仏様・林様』というシチュエーションがあった。トレーニング前後の準備に誰よりも時間使っている。足が元々爆弾抱えているような感じですが、キャンプも全く離脱することなく、1人で一番早く行って、予備のトレーニングをしてから練習が始まる。それが繰り返しの毎日だった。本当にプロフェッショナルですし、若い選手も『アキさん(林の愛称)がこれだけやってんだからやらないとおかしいだろう』と思っている。若手のいい見本になっている」

「貢献度高い」郷家挙げるワケ

ー林選手以外で、期待以上だった選手は
「郷家(友太)。昨シーズン10ゴールを挙げているが、今年はそれよりも貢献度が高い。あんなにハードワークする前線はあんまり見たことない。周りからも評価いただいている」

ー個人の数字で見れば10ゴールの方がいいけど、チームは去年16位。(得点がとれなくても)チームが3位、4位にいた方がいいですよね。
「相良(竜之介)もいい。昨シーズンは氣田(現山形)の陰に隠れて、ほぼスタメンでの起用はなかった。そこから主力を勝ち取って大事な所で得点を取っている。中島もそうですし、(オナイウ)情滋もほぼ出場がなかった。『スピードはあるけど…』という話を聞いていたが、徐々にできることが増え、彼に託せる役割も増えてきた。『相手にとって一番嫌な存在』という意味で、彼の成長も大きいと感じますね」

「夏の失速…」カギはボランチ?

ー森山さん知ってますか?仙台は夏に落ちるんですよ。アウェー行くとほとんど勝てない。
「聞きました。きょうもサポーターから言われました…」

ー監督が思っている以上に、運動量含めて落ちますよ。
「おいおいおいおい(笑)穏やかじゃないな(笑)」

ー対策は
「夏に向けて、ボランチがセンターバックからボール受けて、フォワードのところを0トップ気味にして、ボールを保持。そこから背後を狙っていく。『ボランチをもっと使ってというやり方』を採用して、精度・練度・連携を深めているところですね」

ーボールを持てるということは、相手が引く。そうなってくると、身長が高い選手も欲しいのかなと…ヘディングが強い選手。
「なぜそんなに我々の補強の話を(笑)お金がたくさんあるようなクラブならいいですけど、私たちは市民球団。若い選手を育ててくれと言われて僕もここにきた」

選手へ喝!熱い言葉かけられるワケ

ー清水戦の後など、どうしてそんなに熱い言葉をかけられるのか。
(※2-3で敗れた清水戦後のロッカールームで選手に熱い言葉をかけた森山監督。その様子がクラブ公式チャンネルで公開されると、ファンの間で話題になった)

「思ったことを心の中にとどめておくことができない。ミーティングでも毎試合振り返りをするのですが、ベテランだろうが若手だろうが、『このプレーはだめだ』『このプレーは素晴らしい』とはっきり言うようにしている。全体にも言うし、別にその選手を責めているわけじゃない。清水戦に関しても、自分の提示したもので上手くハマらないから行っても取れない、取れないから消極的になる、そうするともっと相手の上手さが引き立つといった形で、かなり悔しい内容だった。でも前半が終わって、『ボールに向かって取り行こう、それを100%やろうよ』と言うと、後半まあまあ互角に戦うわけですよ。だったら、なぜ最初からやらないのかと。負けたのもあって悔しい気持ちが沸々と…笑。『言わずにはいられない!』という感じで言ってしまいました。

若手の躍動…与えられたチャンス

ー若い選手を積極的に起用している。未来の投資というのを意識しているように感じますが
「ベテランも力を証明してくれれば出す。ただ、力が互角なのであれば、若い選手を当然使う。一方、ベテランがそれを上回るパフォーマンスをしたらそっちを出したい。競争なので、どの選手にもチャンスがあると常々伝えています。このところ、名願が力を発揮して試合で何度かいい仕事をして、スタメンで抜てきした。チャンスは誰にでも転がっている。しっかりグラウンドで、練習で表現して、いい選手がいれば出場機会を勝ち取ることができる。全員が諦めることなく、自分にもチャンスがあると感じながらやってくれている。勝てているということもあるが、チームの雰囲気の良さの1つの要因かなと思っている。

感動を与えられる試合を

ーベガルタサポーターはご覧の通り素晴らしい。例年は負ければブーイングされることもあるが、今年はほとんどブーイングがない
「不甲斐ない試合をしたらそうなりますし、常々言っていますが、サポーターの皆さんを感動させるような。負けていたとしても、ひたむきに最後まで走る姿を見てもらいたい。負けていても最後までゴールに迫るような試合を。岡山戦が一番点差ついたゲームでしたが、そのゲームでさえブーイングはなかった。最後まで選手が諦めずに走って戦ってというところが見えたゲームだったことが要因では。順位が落ちてきたり、不甲斐ないような内容が見えたりしたら当然あると思うので、そうならないように頑張ります」

指揮官が見据えるベガルタの未来

ー12月、シーズン終了時点での目標は
「参入戦(プレーオフ)を戦うところまでは頭の中にある。当然1位、2位(自動昇格ライン)を諦めているということではないが、そこまでの力は正直ないと思っている。世界でもまれにみるような大混戦のきっ抗したリーグ。ライバルチームを見ても、簡単には勝たせてもらえないと思う。この参入戦ラインをしっかり見据えながら戦っていくのが現実的で、6位ギリギリでもいい。『引き分けでも昇格』よりも「勝たないと昇格できない」という方が、僕たちの性に合っている。チャレンジャーのマインドを持って戦えるかなと。最初から平均勝ち点1.7という数字も挙げてやってきている。そういう意味では、そこをしっかり狙っていきながら6位以内に入り、最後の1か月で参入戦の戦いをしたい」

(仙台放送)

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