今なお残る「鉄道遺構」 ほぼ当時のまま…半世紀以上前の駅待合室 鉱石運ぶ2つの「トロッコ跡」 あの“世界遺産”との関係も…

島根県内には廃止された鉄道路線がいくつかありますが、その中には長い年月が経った今でも痕跡をたどれるものがあります。
出雲市と大田市で知られざる鉄道遺構を探ってみました。

入江直樹記者
「須谷医院前という出雲市内のバス停に来ています。実はここ、半世紀以上前に廃止された鉄道の待合室だそうです。」

地元を走っていた旧一畑電鉄立久恵線に詳しい奥井正之さんに、この待合室についてお聞きしました。
立久恵線は、出雲市と広島県三次市を結ぶという壮大な構想を持ちながら、出雲市佐田町までの18.7キロで頓挫。
1964年の水害で廃止されました。
60年経った今も残っているのは、出雲市駅から4つ目の旧桜駅の待合室です。

奥井正之さん
「この瓦とかは自分の所から持ち出して。廃線で、『何日までに撤去するけえ、地元で要るんだったら再利用してください』という格好で。」

地元の人たちが協力して移設し、屋根などは一部修理したものの、現在もほぼ当時のままだといいます。

立久恵線の線路跡はほぼそのまま国道184号に転用されていて、桜駅があったのは現在地から100メートルほど離れた朝山コミュニティセンターの前です。

奥井正之さん
「地元の要望があって設置された駅なんですね。小学校から役場も全部この敷地内にありましたからね、ラッシュ時は客がいっぱいいっぱいでした。それが終ったら、もうがらんがらんで。」

ほかにも、国道184号沿いにはトンネルや、キロポストと呼ばれる距離を示す杭、鉄橋の橋台などが残っていました。
路線名の元になった立久恵峡付近には、上下2本の道が残っていますが、このうち下側が線路跡だといいます。

続いてたずねたのは…

入江直樹記者
「大田市のJR静間駅です。こちらから、何とトロッコの路線が伸びていたというんです。」

静間駅から伸びていたのは、人が押して動かす貨物用トロッコ「静間軌道」。
大正時代の1920年に開業し、
昭和15年・1940年頃に廃止されたようです。

松代・鬼村鉱山等調査研究協議会 安藤彰浩会長
「後ろの倉庫まで、鬼村と松代両方の鉱山からトロッコの軌道がついておりました。」

トロッコは2キロほど南にあった2つの鉱山から、鉱石を運んでいました。

松代・鬼村鉱山等調査研究協議会 アドバイザー 中村唯史さん
「透明度の高い方がやっぱり品質が良かったようです。」

セメントの原料になる石膏です。
学習会などを通じ、地元の埋もれた歴史の発掘に尽力している安藤さんたちと一緒にトロッコの跡をたどります。

松代・鬼村鉱山等調査研究協議会 安藤彰浩会長
「ここはですね、鬼村鉱山からトロッコで運んで来たものが、松代鉱山から来たのとちょうど合流する地点なんです。」

静間軌道は、路面電車のように道に線路が敷いてあり、2つの鉱山からの線路がY字形に合流する路線でした。
当初は山陰線に駅がなかったため、日本海に面した和江港で船に鉱石を積み替えていましたが、1926年の静間駅開業で貨物列車利用に替わりました。

一方で、トロッコは鉱山で働く人たちのライフラインにもなっていたといいます。

松代・鬼村鉱山等調査研究協議会 安藤彰浩会長
「帰りは空ですから、こちらの静間の町の中で生活物資などを仕入れてまた持って帰ると。子どもたちも帰りには乗っけてもらったり。」

鬼村鉱山に向け車を走らせます。
鉱山の名前の由来になった鬼岩(おにいわ)という巨岩の近くでは…

松代・鬼村鉱山等調査研究協議会 安藤彰浩会長
「トロッコでの運搬をしていた時に道路と合流する地点ですね。」
入江記者
「後ろがちょっと高くなってますけども、あちらがトロッコの道だった?」
安藤会長
「そうです。山沿いにですね、鉱山の方から運び出してこの道路に合流したと。」

ここからは鉱山の様々な施設の間にトロッコの線路だけがぐねぐねと張り巡らされていたとのこと。
さらに山を登って行くと、そこには…

松代・鬼村鉱山等調査研究協議会 安藤彰浩会長
「上と真横に行ってる分がありますね」
入江記者
「あっ、あそこにありますね」
安藤会長
「で、これは下へ行く分です」

線路が残っていました。
レールの間隔は50センチ余りで、一般的な軽便鉄道よりさらに狭く、極めて簡易な規格だったようです。

鬼村鉱山の閉山は1967年ですが、鉱山の中ではトロッコがかなり後まで現役だった可能性はありそうです。

松代・鬼村鉱山等調査研究協議会 アドバイザー 中村唯史さん
「かつて石膏は島根県が全国一の産出量だった。セメントに大量に使われて高度成長期を中心とする時代の国内のインフラ整備で大変役に立った、使われたという、そういう意義がありますね。」

同じ大田市内の石見銀山とも関係があります。

松代・鬼村鉱山等調査研究協議会 安藤彰浩会長
「世界遺産・石見銀山なんですけども、その銀山での採掘の技術などが石膏の鉱山の開発にも大きな貢献をしておりますから。日本の近代化に大変大きな貢献をした産業がこの地域にあったということを、きちっとした形で整理をして次の世代の人につなげていきたい」

解説の看板を設置するなどし、鬼岩と合わせてPRを進めたいということです。

入江直樹記者
「細いレールに普通では考えられないような下り坂。こういうのを見ると本当にワクワクしますね。知られざる鉄道遺構はまだ沢山ありそうです。」

© 株式会社山陰放送