【6月23日付編集日記】セナへの誓い

 「音速の貴公子」が眠るサンパウロのモルンビ墓地に、福島の報道陣が訪れる機会を得たのは、彼の死から3年後だった。アイルトン・セナ。自動車レースの最高峰F1で3度も総合優勝した伝説のドライバーだ

 ▼ブラジル県人会の80周年で表敬訪問した知事の同行取材班を、現地の方々が真っ先に連れて行きたかった場所。国民が最も誇る英雄の名を刻んだプレートは丘を覆う芝生の中に据えられ、多くの人々が訪れていた

 ▼1994年、イタリアでの決勝でコンクリート壁に激突、大破した。没後30年の今年はさまざまな特集が出るなど、再び脚光を浴びる。事故原因は刑事裁判も含めて長く議論されているが、いまだ分かっていない

 ▼しかし安全性かビジネスかで揺れたF1運営の規則はセナの死後、安全重視の傾向を強めた。運転者を守る装備が次々に開発された。レース発の高い技術が一般の自動車の安全性向上につながったのは確かだろう

 ▼日本の自動車業界は、技術への信頼と規則を巡って揺れている。搭乗者の不安、販売店社員らの不安を急いで解消すべきだ。安全の徹底を英雄や犠牲者に誓ったはずの技術者と経営者なら、国と共に理想的な制度を実現できると信じたい。

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