【6月23日付社説】大熊のゼロカーボン/再エネで持続可能なまちに

 大熊町が、二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする「ゼロカーボン」の取り組みを進めている。積極的な施設整備を通じて国や県などが目標とする2050年よりも10年早い達成を目指す。

 町がゼロカーボンを目指す背景には、東京電力福島第1原発事故に伴う全町避難の経験がある。地球温暖化で異常気象が続けば、災害は激甚化し、住民は避難を余儀なくされる。原発事故を経験した大熊だからこそ、率先して温暖化問題の解決に取り組もうと、20年にゼロカーボンを宣言した。

 気候変動を抑えるためには化石燃料に頼る電源構成の見直しを図ることが欠かせない中、国のエネルギー政策の中心にいた大熊が発するゼロカーボンのメッセージ性は強い。町は、新たな発電方法や省エネルギーの先端技術の実証に取り組む企業、団体などの力を取り入れながら、着実に脱炭素を実現していくことが重要だ。

 町はゼロカーボンの柱として、太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーの導入を掲げる。JR大野駅西口の下野上地区は大規模な太陽光発電設備を主な電源とする前提で整備が進んでおり、地区の消費電力の8割程度を賄う。企業の生産拠点の整備などで生じる電力需要についても、町などが出資した地域新電力会社の発電施設を増強し、可能な限り再生可能エネルギーで供給したい考えだ。

 太陽光などから得た電気を地区ごとに蓄電器に蓄え、使用するスマートコミュニティーは、災害時でも住民の生活を守ることができる。地域新電力会社によるエネルギーを地産地消すれば、光熱費に相当する分が地域経済の中で循環する。町はゼロカーボン推進を通じて、非常時に強く持続可能なまちづくりを進めてもらいたい。

 町は、施策の一環として「ゼロカーボンによる広域防災連携推進会議」を設立した。電気自動車や燃料電池自動車の蓄電機能に着目し、災害時に車両を被災地に派遣することで、停電になった避難所などの電源を賄うという枠組みだ。5月時点で、民間企業を中心に県や本宮市などの自治体を含めた31団体が会員となっている。

 電気自動車などは環境負荷が少なく、導入することでゼロカーボンが進む。台数が増えつつある電気自動車などを広域防災に役立てるのは国内初で、取り組みは十分に評価できる。

 町には、県内の他の自治体や水素ステーションを運営する事業者との連携を密にし、ゼロカーボンと防災の両立を進める活動の輪を広げてほしい。

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