【中国】日本の書籍を中国へ[媒体] トーハン、出版43社と見本市出展

トーハンが取りまとめた「日本館」で日本の書籍を手に取る中国人女性=21日、北京市

日本の出版社が中国市場の開拓を進めている。北京市で23日まで開かれた中国最大級の書籍見本市「北京国際図書博覧会」には、出版取次大手のトーハン(東京都新宿区)が日本の出版社43社を取りまとめて出展。日本国内の出版市場が縮む中、ヒットすれば100万部を超えるミリオンセラーになることもあるという中国市場での商機は大きい。中国で日本の書籍の人気は高く、版権取引の拡大を狙う。【吉野あかね】

トーハンが取りまとめた展示エリア「日本館」では、児童書や自己啓発書、イラスト技法書など、中国読者の関心が高いジャンルを中心に約600冊を出品した。出展面積は約200平方メートルで、海外の企業・団体としては最大規模だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)と連携した特別テーマを出展。KADOKAWA、講談社、集英社、東京書籍は個別のコーナーを設けてアピールした。

動物の写真集を手にとって見ていた中国出版社勤務の女性は「中国ではあまり見ないテーマの本が多くておもしろい」とにっこり。熱心に見入っていた中国人女性は「本の表紙がユニークで、日本語はわからないけれど手にとって見てみたくなる」と話した。

トーハン海外事業本部アドバイザーの加藤正樹氏によると、中国社会が成熟していく中で、情操教育に対するニーズが深まり、児童書の市場が成長しているという。介護に関する本の問い合わせも増えている。こうした本へのニーズは、中国の社会情勢を反映しているといえそうだ。

■ヒットすれば「桁違い」

日本の出版市場が縮小する中、出版各社は「ヒットの規模が違う」という中国市場に注目している。

中国では日本の文学作品が数多く翻訳出版されている。世界的なベストセラーである黒柳徹子さんの自伝的な物語「窓ぎわのトットちゃん」は、中国で2003年に翻訳出版され、累計1,700万部を売り上げた。今年5月には続編の中国語版も発売された。

最近では、日本の女性学研究の第一人者である上野千鶴子さんの著書も大ヒットした。第一財経日報(電子版)によると、中国でこれまでに20冊以上が翻訳され、このうち15冊は2020年以降に出版されたという。中国国内の総販売部数は23年2月までに70万部を超えた。

加藤氏は、「日本では最近ミリオンセラーはなかなか出ないが、中国でヒットすれば日本の書籍の翻訳出版でも100万部規模になる」と話す。

経済成長に伴い書籍の価格も数十年前に比べ上がっている。ヒットすれば売り上げに応じて発生する出版社へのロイヤルティー収入は膨大になる。

トーハンは、日本と中国の出版社の版権交渉を仲介。ブースには出版社同士が商談できるスペースも設置した。加藤氏によると、初日からほとんどのテーブルが商談客で埋まり、商談の数は前年の出展時に比べて2倍近くに増えるとみている。

シニアのライフスタイル本など約60冊を出品したすばる舎(東京都豊島区)の徳留慶太郎社長は「中国では以前、ビジネス書やスキル本がよく売れていたが、最近は豊かな生き方を考える本や、働く女性を応援する本の人気が高く、日本の市場と似てきている」と話す。読者それぞれの価値観に応じて幅広い分野の本が求められているといい、「本のニーズを探りながら、ベストセラーを出すことを目指したい」と意欲を示した。

北京国際図書博覧会の開催は今年で30回目。今回は71カ国・地域から1,600社が出展し、約22万点の書籍が展示された。このうち外国企業は前年より150社多い1,050社。

■2兆円市場

中国の出版市場は拡大している。中国出版協会などがまとめた中国の2023年の出版市場規模(定価ベース)は、前年比4.7%増の912億元(約2兆円)だった。近年は新型コロナウイルス禍で変動があったものの、23年はプラス成長を確保した。

23年の新刊出版点数は7.3%増の18万点で、小売市場で販売されている出版物の総数は1.6%増の237万点となった。

ジャンル別で見た販売比率は、「少年・児童関連」が市場全体の27.2%を占めて最大。「補助教材」と「文学」はともに10%を超え、「学術・文化」、「ビジネス・管理」は4~10%だった。

販売チャンネルは、電子商取引(EC)プラットフォームが全体の4割以上を占めて最大比率。動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国版「抖音(ドウイン)」をはじめとする「ショート動画」のECは26.7%だった。

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