「SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Art」レビュー。動画ユーザーから見た使い勝手は?[OnGoing Re:View]

2024年6月、シグマから世界初のフルサイズ用開放F1.8通しズームレンズ、「SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Art」が発表された。このスペックを見て多くの人の頭に浮かんだのは2013年にシグマが発売したF1.8通しのズームレンズ、「SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Art」の存在だろう。

SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Artは、APS-C用開放F1.8通しズームレンズということで、写真ユーザーだけでなく動画ユーザーにも大人気のレンズだった。特にBlackmagic Pocket Cinema Camera 6K(以下:BMPCC6K)などのスーパー35mmセンサーの動画用カメラには最適なレンズとして有名で、私もBMPCC6Kと18-35mm F1.8の組み合わせを多くの撮影現場で使ってきた。

そんな人気レンズのエッセンスを、約10年の時を経てフルサイズミラーレスカメラ用に進化させた製品とも言えるのが、今回発表されたSIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Art。F1.8通しのズームレンズというだけでなく、焦点距離のレンジも約27-52.5mm(フルサイズ換算)だったSIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Artと近いスペックになっており、動画用にフルサイズカメラを使う人が多くなった現代では、動画ユーザー待望のレンズとなりそうだ。

今回は「動画ユーザーの視点からこのレンズの使い勝手はどうなのか?」を、Eマウント版とLマウント版の両方をお借りして、それぞれソニーFX3とBlackmagic Cinema Camera 6K(以下:BMCC6K)に装着してテストしてみた。このレンズの描写の素晴らしさについては各所ですでにレビューされているため、ここでは主に使い勝手について書かせていただく。

▼実際に撮影した映像やテストの結果などは以下の映像レビューからご覧ください。

サイズと外観

SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Artは全長が151.4mm、重さが960g(Lマウント版)で、SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM|Artの全長121mm、重さ810gから少し大きくなり重くなったようなサイズ感。決して軽量なレンズとは言えないが、三脚座が欲しくなる程の重さや長さとまではなっておらず、絶妙なラインに収めたサイズ感だと感じた。ズームやフォーカスを動かしても全長が伸びない点や、フィルター径が82mmで円形フィルターも選びやすいという点も動画ユーザーにもありがたい。

焦点距離の範囲

28-45mmという焦点距離の範囲に関しては、24-70mmなどの標準ズームに慣れている人からすると広角・望遠ともにもう一歩足りないと感じられるかもしれないが、ズーム域が広がることでこれ以上レンズが大型化することよりは、範囲が狭くなっても今のサイズに収めることを選択したシグマの判断を支持したい。

少し前に「SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN II | Art」も発売されており、ズーム域を重視するならそちらのレンズを、開放F1.8が必要ならSIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Artをと、何を重視するのかによって選択もしやすい。

また、ボディ内手ぶれ補正の効きが強いカメラでは、広角レンズを使った動画撮影時に四隅が歪む「IBIS Wobble」という現象が起きがちだが、この現象は広角であればあるほど発生しやすく、個人的には24mmよりも広角だと気になることが多かった。そういう意味でも28mmというのは動画撮影時にちょうどいい焦点距離だと感じる。実際にこのレンズをLUMIX S5IIに装着して28mmで撮影してみたが、IBIS Wobbleの影響はほとんど感じなかった。

フォーカスブリージング

フォーカスを変更した場合にどのくらい画角が変化があるか(フォーカスブリージング)について見てみると、28mmの広角では少し変化が見られ、45mmではごくわずかに変化するという結果になった。28mmの方でも特に大きいというわけではないので、この点でも動画用途にも使いやすそうだ。さらにズームして焦点距離を変えてもフォーカスのズレはほとんどなく、かなりパーフォーカルに近い印象を受けた。

BMCC6Kとの相性は?

SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Artが発表された時、個人的に最も気になったのは「このレンズはBMCC6Kで使うのに最適なレンズなのか?」ということだった。前述の通り、SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM|ArtがBMPCC6Kと組み合わせて使われることが多いレンズだったのもあり、フルサイズ&Lマウント化したBMCC6Kとこのレンズの組み合わせも相性が良いのかがぜひ知りたいポイントだったのだ。

この相性を確かめる上で大事になってくるのは2点。「マニュアルフォーカス時の挙動」と「補正なしの場合の歪み」についてだ。最近のミラーレスカメラとレンズは、小型軽量化とAFのパフォーマンス向上のために、フォーカスがバイワイヤー化(フォーカスリングが物理的にレンズに繋がっておらず、リングを回した量をセンサーで読み取り、モーターでレンズを動かす方式)されているものがほとんどで、レンズの設計もカメラ側で歪曲や周辺光量を補正する前提になっているものが多い。

そのため、ソニーやLUMIXなどのAFやカメラ内のレンズ補正に対応したほとんどのカメラでは問題ないが、BMCC6Kなどのマニュアルフォーカス前提で、かつカメラ内でレンズ補正の機能がないカメラの場合は、カメラ側からのサポートがない素の状態のレンズの挙動が重要になってくる。

マニュアルフォーカス時の制御

フォーカスがバイワイヤー形式のレンズをマニュアルフォーカス設定で使用する時、リングを回すスピードによってフォーカスが動く量が変わるノンリニア形式と、回すスピードに関係なくリングを回す角度によってフォーカスの動く量が変わるリニア形式の2種類の制御方法がある。

ノンリニア形式のMFは写真で使う分にはおそらく俊敏なフォーカス合わせができて便利なのだと思われる。だが、動画の場合はゆっくりフォーカス送りをしようとするとなかなかフォーカスが移動せず使いにくいため、動画でMFを使いたい場合はリニア形式の方が使いやすいと私は思っている。

このノンリニア/リニアの形式は、LUMIX S5IIをはじめとしたLUMIX Sシリーズなどではカメラボディ側でどちらの制御方法にするかの選択ができるが、ソニーのEマウントカメラやBMCC6Kはこれらをボディ側から選択できず、レンズによってどちらに設定されているかが決まることになる。SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Artはこの設定がデフォルトではノンリニアになっているようで、ソニーカメラやBMCC6Kでこのレンズを使用すると、リングを回すスピードによってフォーカスの動く量が変わってしまった。

LUMIX S5IIなどではリニア/ノンリニアの選択が可能

MFでの運用が前提であるBMCC6Kで使う際にこの仕様はちょっと残念だが、このレンズのノンリニア具合は、ゆっくり回した時と素早く回した時のフォーカスの動きの差がそれほど大きくないため、厳密なフォーカス送りが求められる撮影ではないのであれば、慣れてしまえば対応も可能な範囲かなとも感じた。

例えばLUMIXのF1.8の単焦点シリーズはこの速度差によるフォーカスの動きの差がかなり大きく、BMCC6KでMF運用するのはかなり厳しいという印象を受けたが、SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Artではそこまでの使いづらさは感じなかったので、人によっては許容範囲とも言えるだろう。

補正なしの場合の歪み

BMCC6Kでこのレンズを使おうと思った時にもう一つ気になるのが、カメラ側での補正がなかった場合の歪曲がどのくらいあるかだ。これを確認するためにSIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | ArtをソニーFX3につけて、補正ありとなしの状態で動画を撮影し、その差を比べてみた。

※画像をクリックして拡大

結果は上記画像のようになり、28mmの時にはわずかな樽型の歪曲が、45mmの時には糸巻き型の歪曲が見られた。ソニーカメラやLUMIXカメラではこれらの歪曲は(周辺光量落ちも含めて)ボディ側で自動的に補正することができるが、BMCC6Kではそれらの補正ができないので注意が必要だ。個人的には特に大きい歪みとは感じないのでそのままで使用してもよいと感じたが、気になる場面はDaVinci Resolveで編集時に補正するのが良いだろう。

今回テストした素材をもとにすると、DaVinci Resolveの編集画面インスペクタ内にあるレンズ補正の項目を、28mmの時には0.083、45mmの時は-0.050にすると、カメラ内で補正がかかった状態と近い見え方になった。

SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Artは動画ユーザーに最適なレンズか?

今回撮影してみて感じたのは、これは間違いなく撮影の自由度を上げてくれるレンズだということだ。私はビデオグラファースタイルで映像全体の構成も考えつつ自分で撮影を行うことが多いが、特にドキュメンタリー撮影時には、その瞬間ごとに「今、レンズを変更すべきか?」「どんな動きにも対応できるようにズームレンズにすべきか?単焦点でいくか?」と、描写をとるかズーム域をとるかの二択を迫られ続けている感覚がある。

そんな私にとっては、かつてSIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM|Artがそうだったように、今回のSIGMA 28-45mm F1.8 DG DN | Artもそれらの選択を考えなくていいものにしてくれる最高の相棒になりそうだ。

ただし注意しなければならないのは、ここまで各項目で見てきたように、BMCC6KやソニーカメラでのMF使用を前提とした場合には、最高のレンズとまで言い切ることは難しそうだということだ。ノンリニアなMFの挙動は(許容できる人もいるだろうが)、万人にお勧めできる使用感ではない。BMCC6Kとの組み合わせは、もし今後ファームウェアアップデートなどでボディ側からのノンリニア/リニアの切り替えに対応するなどのことがあれば、その時初めて本当の意味で使いやすいセットになると感じた。気になっている方にはぜひ一度店頭で触ってみて、使用感を確かめてみることをお勧めしたい。

伊納達也(inaho Film代表/映像ディレクター)|プロフィール
1988年、愛知県春日井市生まれ。東映シーエム株式会社を経て、2014年から株式会社umariにて様々なソーシャルプロジェクトの映像ディレクションを担当。その後、株式会社inahoを設立し、社会課題を解決するプロジェクトについての映像制作を行っている。

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